電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第275回

ニッポンの自動車素材は100年企業が大黒柱として支えている


~東海カーボン、日清紡、旭硝子、積水化学、日清製粉などに注目~

2018/3/9

 東海カーボンという会社の株価が話題騒然となっている。同社は1918(大正7)年に創業した老舗メーカーであるが、ここにきてとんでもない人気を呼び込んでいる。炭素製品の大手であり、タイヤ用のカーボンブラックでも国内首位であるが、何と言っても人気上昇のキーワードはEV向けリチウムイオン電池負極材を得意技とすることにある。

 東海カーボンの株価は数年前までは何ということはなかった。300~400円をうろうろしていたが、2月28日現在で1863円となっており、ここ1年間の株価上昇ランキングではおそらく、全上場企業の中でトップ水準を行くと思われるのだ。

 同様の業種でいえば、日本カーボンの株価も2月2日あたりで5000円を切っていたが、2月28日時点では6180円まで一気に上げている。東証2部のSECカーボンもまた2月2日段階で6500円を切っていたが、2月28日段階で8070円に押し上げている。さようまことに、次世代自動車産業の進展によるカーボン産業の急進展は、黒鉛電極、カーボンブラックなどの高値を呼び込み、株価もまた狂乱的な状態になっている。

世界最強のニッポンの素材力が自動車産業を支える!!(写真はトヨタ自動車東北)
世界最強のニッポンの素材力が
自動車産業を支える!!
(写真はトヨタ自動車東北)
 こうしたカーボンにおける株式市場の異変を見るにつけ、自動車産業の基礎を支えているのはやはり日本の素材力であることがよくわかる。しかも、ほとんどが100年企業であることに注目する必要がある。日本の自動車産業を代表するトヨタが、創業当時の自動織機から自動車事業への転換を図ったのは80年前のことであった。その後、日産、ホンダ、マツダなど錚々たる日本の自動車メーカー群が誕生してくるが、正直言ってそれほどの歴史はないのである。ところが世界最強のニッポン自動車を支えるのは、100年以上前に創業した老舗の素材企業であるということは誠にもってエポックメーキングであるといえるだろう。

 自動車用の薄板鋼板の世界を見れば、やはり新日鉄住金がダントツの開発力および量産力を持っており、世界に君臨している。自動車向けガラスでいえば、旭硝子と日本板硝子が世界チャンピオンの座を争っており、他の国のガラスメーカーは品質および歩留まりという点で全く日本勢に歯が立たない。そして自動車ガラスに挟み込む中間膜という素材においても積水化学がぶっちぎりの世界トップシェアを持つのだ。これらの企業はすべて100年企業である。

 そしてまた、自動車の燃料フィルターの分野で世界トップシェアを持つのが、創業118年目を迎える製粉の大手である日清製粉なのだ。創業131年目を迎える田中貴金属グループは燃料電池向けの触媒の分野で白金や合金を使っているが、これまた60%の世界シェアを握っている。1897(明治30)年に創業した老舗の化学企業である宇部興産は、戦略的子会社の宇部マテリアルズで自動車向け機能性材料強化に動いている。特に自動車用インパネなどに用いられるモスハイジという材料が注目を浴びている。

 繊維業界の名門中の名門である日清紡もまたバリバリの100年企業であるが、その得意技は今や綿紡績や合成繊維ではない。すなわち世界トップシェアを持つブレーキ摩擦材なのだ。米国の規制にも対応した、銅を使わない自動車ブレーキ材などの量産にも着手している。

 そしてまた日清紡はあろうことか、2005年に新日本無線の半導体事業を手に入れ傘下に加えた。主力のオペアンプ・コンパレーターは国内外で車載向けの受注が急増し、繁忙を極めている。新日本無線の売上高も12年度の346億円から17年度見込みの520億円まで伸ばしてきており、誠に順調である。

 14年度にはOA機器大手のリコーの半導体部門をこれまた傘下に加えてしまった。分社化されたリコー電子デバイスは、リチウム電池保護ICではトップシェアを獲得している。大手スマホメーカー向けのシェアは60%以上と圧倒的に強い。時ならぬ世界的なEVブームの到来によりキーデバイスとなるリチウムイオン電池は、増産に次ぐ増産が予定されており、リコー電子デバイスの仕事も一気に増えてくるだろう。もちろん今後は車載向けの領域を強化する考えであり、ワンチップでカバーできる製品を展開していく。

 日清紡以外にも、自動車のクッション材などに使われるウレタンフォームを主力製品とするクラボウも注目企業の1社だ。同社はその他にも機能性フィルムなどの先端分野の展開をまっしぐらに進めている。また、炭素繊維量産などで名前が知られてきたのが帝人である。さらに高機能素材にひた走りの東洋紡などもおり、ニッポンの老舗企業が林立する繊維業界はIoT時代を迎え、最先端シフトの色をにわかに強めてきたといっても良いだろう。

 世界最強の日本の素材力はその多くが100年企業によるものであり、これが日本はおろか、世界の自動車産業の発展を支えているといっても過言ではないのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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