インドの2017年の新車販売台数は401万台となり、ドイツの385万台を抜いて世界第4位に浮上した。東京オリンピック開催の2020年段階では、世界第3位の日本の523万台を抜くとも見られている。
一方、こうした状況下でインド政府は2030年までにすべての新車販売をEVに切り替えるという目標設定を明確にし始めた。これは世界で巻き起こっているEVブームがついにインドにまで波及してきたことを意味する。近い将来には中国を抜いて、世界最大の人口国になると言われるインドの自動車政策には世界各国が注目しており、EV普及によって利得を得る人たちはまさに万歳三唱という政策であろう。
ちなみに2017年度のインドの経済成長率はプラス6.8%と、そこそこの水準を維持している。一時期はかなり低迷したものの、ここにきて景気は持ち直しに転じていると見られるのだ。2018年度についても成長率予想は7.3%となっており、じわじわと将来の大国インドのスケールは肥大化し始めている。
現状にあってGDP世界第2位であり、米国を急追している中国の新車販売台数は2887万台であり、まさにすさまじい勢いで自動車消費大国にのし上がってきた。しかしながら前年比の伸び率で言えば中国は3%にとどまっている。また新車販売台数世界2位の米国の2017年実績は1723万台であるが、前年比で言えばマイナス2%成長になっており、要するに全然伸びないどころか減っている。これに対してインドの伸び率は前年比10%増になっていることに注目しなければならない。
インド自動車工業会の発表によれば、2017年12月の販売は何と前年同月比14%増となっており、成長速度はさらに高まっている。インドの人口は中国に次ぐ世界2位の約13億人であるが、若年層比率が非常に高い。このためインドの自動車市場は10年で2倍となった。
またインドの16年段階の1人あたり国内総生産(GDP)は約1700ドルで、07年に比べ7割も増えている。こうした状況下で、いずれインドが自動車消費という点でも世界を牽引する存在になっていくだろう。
EVをはじめ次世代自動車は
まさに電子デバイスの固まり
(JPCAショー/メクトロンのブース)
さて、インドの車市場拡大で超盛り上がっているのは実のところ日本の自動車メーカーなのである。何と全販売シェアの約5割が日本のスズキであり、前年比15%増の160万台を出荷している。収入の絶対的比率を考えれば軽自動車が中心になるのは当然であり、スズキをはじめダイハツなど日本の軽自動車メーカーは熱い視線でインド車市場の成長を見ている。そしてまた、これに伴う自動車部品、さらには自動車向け半導体、各種センサーのメーカーもインドをマークし始めた。
しかしてインド政府は、かつて2020年までに国内のEVの累計販売台数を600万~700万台に増やすことを目標としていたが、これは全くの惨敗といってよい状況で収束するだろう。近年のEV・PHVのインド国内販売は年間数万台程度にとどまっており、要するに次世代エコカーはあまり人気がない。今回打ち出された「2030年までにすべての新車販売をEVに切り替え」という政策についても、本当にできるのかという懐疑的な見解が多いのだ。
実はこれはインドだけのことではない。中国においては何と2020年までにEVの累計販売台数を500万台に持っていくとの仰せである。これまた実のところ目標だけがあって、現実的な切り替えはなかなか難しいと見られている。
当たり前のことであるが、EVに切り替えても、EVは電力を生んでくれない。火力発電所や原発でつくられた電力をリチウムイオン電池に入れて走るのだ。いまだに石炭火力でCO
2出しまくりの中国がEV推進を加速すればするほど、CO
2が増えてくるという矛盾についてはどう説明するというのか。インドもまた中国と同じ悩みを抱えることは間違いのないところであろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。