台湾最大の産業技術研究開発機構である工業技術研究院(ITRI)は、半導体をはじめとする台湾エレクトロニクス業界を長年牽引してきた半官半民の研究機関である。6つあるコア基盤研究所のうち、エレクトロニクスやオプトロニクス分野を担当する電子與光電系統研究所で、半導体関連のグループを統括する高明哲(Ming-Jer Kao)副所長に現在の取り組みや今後の開発テーマを聞いた。
――ご略歴から。
高 国立成功大学で高電子移動度トランジスタ(HEMT)を専攻し、博士号を取得して1996年にITRIに入り、それ以来パワーデバイスやメモリー、3D-ICといったナノエレクトロニクス技術の開発に従事している。
最初のプロジェクトは赤外CCDで、1998年から30VトレンチDMOSや600VトレンチIGBTなどの設計開発を手がけたが、2002年にマネージャーになり、フェーズチェンジや磁気メモリーといった新型メモリーの開発に携わった。05年にグループ長に就任し、ヘテロジニアス3D-ICの開発にも着手して、09年から副所長に任命された。
11年にエピ~パッケージやデバイスまで計20社が参加したワイドギャップパワーデバイスの「WPEC」、16年にマイクロLEDの「CIMS」といった開発コンソーシアムの立ち上げに相次いで関わっている。
――現在統括している研究者の数は。
高 6つある研究グループのうち、メモリーおよびパワーデバイスを開発するグループと、マイクロLEDやTGVやシリコンフォトニクス関連を手がけるグループの2つを統括しており、合計120人の研究者がいる。
――今回の来日の主な目的について。
高 1つは、先ごろ東京ビッグサイトで開催された「ネプコンジャパン」にITRIが初めて車載用パワーデバイスを出展したことを受けたもの。台湾は現在、グリーンエネルギー政策として35~40年に自動車を電動化する計画を進めており、これを達成するため日本企業とさらに連携を深めたいと思っている。ハイパワー化や高効率化技術で日本は先進国であり、ディスクリートやモジュールのメーカーとの連携可能性を模索したい。
もう1つは、マイクロLED関連で日本企業と商談するためだ。台湾の開発コンソーシアムには日本企業も参画しており、車載用パワーデバイスと同様、日本の材料、システム、IDM企業と連携を図っていきたい。
――マイクロLEDに関して、米ラスベガスで開催されたCESにサムスンが試作品を展示しました。
高 すでにソニーが「CLEDIS」として商品化しており、参入企業の増加はサプライチェーンの形成やコスト低減に向けて良いことだ。もちろん、ITRIは他社よりも小さなLEDチップを用いて、より良い製品を作り出せるようにする。
――直近の開発成果は。
高 マイクロLEDに関しては、ドライバーICメーカーのマクロブロックと共同で国家プロジェクトを推進しており、プロトタイプの生産ラインをITRI中興キャンパスに構築中だ。まずはタイリング方式で100インチ以上の屋内デジタルサイネージとして実用化したいと考えており、19年初頭にはITRI発のスピンオフベンチャーを設立し、量産&商品化を実現するつもりだ。
――パワーデバイスに関しては。
高 商用車やトラック、電動バイク、工作機械やエアコン向けに次世代のカスタムモジュール製品を開発しており、サンプルテストを実施している。
TSMCもUMCも、もともとはITRIからのスピンオフ企業だ。パワーデバイスに関しては13年にスピンオフベンチャーとしてHestia Power(瀚薪科技)を設立済みだが、パワーモジュールに関してもスピンオフベンチャーを設立して事業化を加速させるつもりだ。これには、ぜひ日本からも出資していただきたいと思っている。
――今後のビジョンをお聞かせ下さい。
高 ITRIは、欧州のフラウンホーファー研究所と並んで、技術の産業化に関して「死の谷を越えられる経験を持つ研究機関」と世界的に認識されている。技術の研究開発により産業発展を促進し、経済価値を創出し、社会福祉の向上に貢献するという伝統を継承していくことが重要だ。マイクロLEDやパワーモジュールに関しても、培ってきた伝統によって必ず産業化できると思っている。
(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2018年2月8日号1面 掲載)