電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第270回

「戦わずして勝つ技術」をもっと極めればニッポンのモノづくりは生き残る


~三豊機工(株)の冷間圧造工具はカスタマイズ、多品種少量が武器~

2018/2/2

 「オンリーワンの製品であれば、ユーザー様はそれを選ぶしかない。つまりはカスタマイズされ、多品種少量生産であり、他には真似のできない製品技術を作り上げればよい。戦わずして勝つ、は究極の戦法だ。ニッポンのモノづくりが生き残る必要条件は実にこれなのだ」

 静かにとつとつと、しかしきっぱりとした口調でこう語るのは、愛知県春日井市に本拠を持つ三豊機工の代表取締役を務める舟橋佳孝氏である。同社の主力工場は鹿児島県南九州市にあり、ここ数年間はそれこそ毎年のように新工場建設を進め、今では第10工場まで立ち上がっている。

 三豊機工は1965年の創業以来、今日まで一貫して冷間圧造工具の総合メーカーとして発展を続けてきた。とりわけ、81年に開発した六角フランジボルト用金型「ダブルヘックス」は、欧米でも特許を取得するなど、海外においても画期的な製品として高い評価を得ている。国内はもとより欧米、南米、東南アジアなど海外二十数カ国で使用されている。

 「ありがたいことに300社くらいのお客様に支えられ、毎年のように設備投資をして新鋭化を図り、今日までやってきた。当社の工具で生産されたボルト、ナット、パーツは、家電、自動車、工作機械、さらには半導体製造装置に至るまで多岐にわたる分野で使われている。私たちの造った工具で生産されたボルト、ナットは産業の塩であると言われている。モノとモノを結びつける締結部品はどうしても必要になるものだから」

 舟橋氏の祖父はお寺の住職であり、創業者は父親の舟橋宜孝氏(現在は取締役会長)。もともとは圧造機械の商社としてスタートしたが、その後に圧造機械向けの金型メーカーはあまりないことに気づき、自らメーカーとして打って出ることになった。

三豊機工の鹿児島工場は多くの熟練工が支えている
三豊機工の鹿児島工場は
多くの熟練工が支えている
 「これで鹿児島工場の人員は200人を超えようとしている。鹿児島県人は誠に純粋であり、生真面目に良く働くと評価したい。女性はまだ20人弱であるが、もっと増やしていきたいと思っている。しかして当社の工場現場は熟練工の塊であり、1人まともに育てるには5年から10年はかかる。多くの熟練工が、伝家の宝刀ともいうべき冷間圧造工具を造っている」(舟橋氏)

 工場の機械設備の保有台数はすさまじいものがある。総計500台の工作機械を保有し、安田工業、ソディックなどメードインジャパンの機械にこだわっているという。NC放電加工機は39台、NCワイヤーカット放電加工機は51台、NC旋盤は51台、NC内面研削盤は34台、真空熱処理炉は12機、マシニングセンターについては3軸が10台、5軸が6台を持っている。すなわち高額機械をフルラインアップしているといってよい。

 「社長の役割というのは、社員を決して路頭に迷わせるな、ということに尽きると思っている。リーマンショックの最悪時には実に売り上げの70%が吹っ飛んだ。ワークシェアリングを実行し、2班に分けた社員は隔週で出社するという措置を講じた。それでも社員の給与は約10%のカットで凌いだ。何しろ生産するものがない。しかして1人の首も切らなかった」

 忍び難きを忍び、耐え難きを耐えた三豊機工は、その後見事なほどの回復を見せていく。年商はここ数年35億円前後であるが、営業利益率は20~23%を上げている。このことで、仮にもう1回リーマンショックが来ても、決して赤字にはならない強固で筋肉質な体質を作り上げていったのだ。

 ところで「冷間圧造」とは、素材を加熱せずに常温で一定以上の力を連続的に加えて成型する加工である。素材をそのまま加工するため、切削加工と違い材料ロスも少ないうえに加工スピードが速く、また熱間鍛造などに比べ、熱による歪みも少ないことなどが特徴だ。また同社が圧造業界に革命をもたらした「ダブルヘックス」によって生産されるフランジボルト、フランジナットは、ボルトと座金が一体の構造となっており、一般のボルトのように座金を組み込む手間が省けるため、作業の合理化と生産性の向上に強力な威力を発揮する。

 「私見ではあるが、近い将来には中小企業が大手を選ぶ時代が到来するのではないかと思っている。重要な部品や金型の多くは中小企業が握っているのが実状だ。日本全国に存在する部品加工、切削加工、鍛造、圧造、金型、めっきなどの技術は、大手企業が何かを製造する場合に必須のものとなっている。ニッポンのモノづくりにおいて、中小企業の果たす役割は大きいのだから、みんなもっと胸を張れと強く言いたい」(舟橋氏)

 確かに、大手企業は中小企業をかつてのように下請けと見なし、コストダウンばかり言っているケースがまだ多い。しかしながらIoT時代を迎えて「小さな池の中の鯉」とも言うべき圧倒的シェアを持つ自社ブランドの中小企業は、きっちりと生き残っている。そしてまた、100年間持つ企業をうたい文句に技術と人材の伝承に注力している。筆者は三豊機工の鹿児島工場の設備と働く人たちを目の当たりにして、唸り声をあげるほどであった。ここには中小企業の魂が宿っているとも思った。ニッポンのモノづくりはまだまだ負けないとの認識を新たにしたのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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