電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第259回

お金儲けのうまい中国、韓国も先端材料には手が出ない


~世界に知られる東北大学金属材料研究所が歩んだ101年~

2017/11/10

 「資金と人を集めてビジネスモデルを作り上げ、いわば自分のものではない技術をうまく使いお金儲けに邁進する。こうしたかたちを見れば、とてもではないが日本勢は中国勢、韓国勢にはまったく勝てない、というのが現状だろう。しかしながら、最先端材料の世界になれば、それはニッポンのステージなのだ」

 こう語るのは東北大学教授の正橋直哉氏である。正橋氏は同大学が2016年に作り上げた産学官広域連携センターの中心的存在であり、世界に知られる「東北大学金属材料研究所」に所属している。彼は富山中部高校を出て東北大学に進み工学博士号を取得する。その後、新日本製鐵に入社し、チタン・鉄鋼・半導体・シリコンなどの開発に従事し13年間を過ごす。1999年に天下の“東北大金研”に入り、06年から教授として金属組織学を専攻する一方、広域連携センターの立ち上げ・運営に従事してきた。

本多光太郎博士の発明したKS鋼は世界を驚かせた
本多光太郎博士の発明した
KS鋼は世界を驚かせた
 “東北大金研”は全国の国立大学附属研究所の中で最も古い歴史を有しており、今年で創立101年目を迎えている。初代所長である本多光太郎博士(世が世であればノーベル賞)の発明したKS鋼は、当時世界最強の磁石としてその名を知られ、その後も東北大金研はセンダスト合金、SiC繊維、アモルファス合金など多くの画期的な材料開発に成功してきたのだ。

 「長い長い年月の忍耐とあくなき探求心を必要とする材料の世界は、まさに日本人の国民性にマッチしていると思う。日本は半導体や液晶において、デバイス分野は現状で遅れをとっているが、その材料分野ではいまだに世界トップの開発を続けており、マーケットシェアでも世界の先頭に立っている。この分野で私たちは決して負けるわけにはいかない」(正橋氏)

 筆者は電子デバイス関連で中国企業や韓国企業に取材することも度々であるが、確かに材料の話になるとつまらなそうにこう言うのだ。

 「材料などは買ってくればよい。日本から買えばよい材料がすぐ手に入る。自分たちで作るつもりはさらさらない。だいたいが、開発だけで10~20年かかるものには興味がない」

 これでお分かりだろう。彼らはすぐ儲からなければいやなのだ。長い年月をかけたモノづくりよりも、ただちに手に入るMONEYこそが重要なのだ。それは、40年の歳月をかけて1兆円の商談に持ち込んだ東レの炭素繊維の物語とは、はるかに遠い世界なのだ。ちなみに米国人のカルチャーはいささか異なっている。例えばIBMは100年企業であるが、長い年月をかけて銅という材料の研究に取り組み、半導体における世界初の量産型銅配線の技術を作り上げた。また、今を時めく人工知能(AI)の代表格であるWatsonも実に40年近い期間をかけてやっと成功に持ち込んでいる。

 朝から晩まで、または夜通し実験と実証を繰り返し、あくことなく同じことを何回もやって作り上げていく材料の世界。日本における米の新種ブランドの生まれる確率は数年に1回といわれるが、それでも担当者たちは粘り強い交配を繰り返し、夢の新品種の誕生に懸けている。

 「私たちは本多光太郎先生のスピリッツを引き継ぎ、これからも努力しなければならない。先生の残した言葉である“今が大切”“つとめてやむな”“産業は学問の道場なり”をいつも胸に刻み込んでいる」(正橋氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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