商業施設新聞
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No.365

商業施設と未来の芽


古沢 大輔

2012/5/8

 2012年の春季は、大型商業施設のオープンラッシュになった。話題の施設はいくつもあるが、実地に見ることができた中では、「表参道原宿」が最も印象深かった。テナントや商品以外のところを寸評する。

 JR原宿駅と東京メトロ表参道駅の間、ラフォーレ原宿に向かい合う神宮前交差点角地に4月18日、東急プラザ表参道原宿がオープンした。以前はGAPが入っていたことで有名な「t's harajuku」という商業ビルがあった場所。ここに、たなごころに森をつかむようにも見える、奇抜な外観を持った新商業施設ができあがった。
 設計したのは建築家の中村拓志氏。同氏には事前に、今回の設計コンセプトや、商業施設に対する考え方を伺う機会があった。その時から楽しみだったのは、メーンエントランスから3階に上る間のデザイン。エレベーターの周囲を万華鏡のようにして、長い昇降時間を飽きさせないように工夫したという。ただ、私が訪れた日はスーツ姿の関係者ばかりだったため、さしもの万華鏡も真っ黒けに。しかし、今ではすっかり色とりどりの服をまとった女性客で華やいでいるだろうから、ぜひ再訪して確かめたい。

 3階に上がって、思わずニヤリ。長いエスカレーターを上りきった先に、ドーンと巨大な熊のモニュメントがあり、思わずそちらに目を奪われるが、フロアの床面に実は中村氏の遊び心が見え隠れしている。見過ごされがちだが、床面に目の錯覚を起こさせる模様が施され、見る角度によって床面がうねうねと波打っているように見えるのだ。遠近感を狂わせる不思議な家具を作ったりと「錯覚好き」の同氏の面目躍如といったところ。
 ここの6階にある憩いの空間「おもはらの森」は、植物たちのこれからの成長が楽しみに思える、まさしく“森”だ。近年の商業施設では、芝生を引いただけ、鉢植えを並べただけといった安易な屋上緑化も散見される中で、植物の種類の豊富さもさることながら、個々の植物の枝ぶりの良さ、美しさに“はっ”と息を呑む。中央部には、色形をあえて不揃いにした籐椅子と、カウンターテーブルに囲まれて、野の草花がたくさん植わっている。ひとつひとつの野草の横に、植物の名を書いた札が立てられている。

 特性上、商業施設という建物は、多かれ少なかれ刹那的、享楽的であることを避けられない。たいていの商業ビルは、オープン当日が最盛期。その後は、機能も集客力も徐々に衰えていくと捉えられるのが一般的だ。おかしなことだが、商業施設においては、新鮮であることと愛着を持たれることは、しばしば二律背反の関係におかれる。
 そうした場所にあって、これからぐんぐん大きくなるだろう小さな草花。それらをボーっと眺めていて、自然と胸が熱くなった。今という瞬間から、未来へつながる時間も、ここにはちゃんと用意してある。そんな丁寧な店づくりが、うれしく感じられたのだ。
都会の真ん中にいることを忘れそうな「おもはらの森」。木々の枝ぶりも美しい
都会の真ん中にいることを忘れそうな「おもはらの森」。木々の枝ぶりも美しい
聞き慣れない名前の小さな草花もたくさん植えてある
聞き慣れない名前の小さな草花もたくさん植えてある

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