電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第246回

君は「タケダ理研工業」の自由闊達な社風を見たか!!


~半導体メモリーテスター最大手のアドバンテストに発展し超フル稼働~

2017/8/10

 まだ記者デビューして間もないころのことである。埼玉県行田にあるタケダ理研工業というカンパニーを訪問したのだ。自分の取材ノートを紐解いたら1979年の夏ごろであった。世界初の100MHz ICテストシステムを開発したことで一部のマニアックな人には人気のある会社であったが、工場はまだとても小さかったことを覚えている。

 タケダ理研工業が創業したのは、1954(昭和29)年のことであり、武田郁夫という人が作り上げたベンチャーカンパニーであった。この年は通産省電気試験所に電子部が発足し、トランジスタ試作に本格的に取り組み始めたころであった。また、東京通信工業(現在のソニー)が東京会館でトランジスタを1個4000円で売り出し、あっという間に即売したのであった。

 さて、このタケダ理研工業は85年に半導体試験装置の世界市場でシェア第1位を初めて獲得する。そしてまた、社名をアドバンテストに変更し、東京証券取引所第1部に上場するのだ。

 「アドバンテストが上場した1985年に、私は東京電機大学を出て入社する。その時はまだタケダ理研工業の名前であった。いきなりプロダクツ部門の仕事に携わったが、DRAMが一気に伸びた年であり、ひたすら追われまくった。製造の一員なのに購買、検査、梱包、出荷、さらには客先での設置などすべてをやることになった。日立武蔵工場に営業に行ったこともある」

 こう語るのは、アドバンテストで取締役常務執行役員の任にある塚越聡一氏である。塚越氏はサプライチェーン担当の生産本部長であり、アドバンテストの最大生産拠点である群馬工場の責任者なのである。

(株)アドバンテスト 取締役 常務執行役員 塚越聡一氏
(株)アドバンテスト 取締役
常務執行役員 塚越聡一氏
 「群馬工場は世界全体の50%を生産する拠点である。電子部品の実装が一番大切な仕事であるが、ロボットと手作業のハイブリッドでこなしている。ビッグデータを駆使した生産にも移行したいが、AIを導入するには変動条件が多すぎる」(塚越氏)

 群馬工場には約400人が従事しているが、男性が70%、女性が30%となっている。勤務時間は8時45分~17時30分だが、夜間はロボットなどを駆使して自動運転で動かしている。
 「女性労働力は実に大切だと考えている。はんだ付けの修正などははるかに男性より優れている。視野角は広く、同時並行処理も得意である。考えてみれば、洗濯しながら、食事を作り、子供の世話まで見る女性は仕掛りのまま進んでいくことができる。その意味では、男性は集中力はあるものの、女性のきめ細やかさ、仕掛り処理には勝てないかもしれない」(塚越氏)

 さて、アドバンテストの群馬工場は、現状でフルフル稼働といってよいだろう。ある部門が忙しいのではなく、大注目を集めるフラッシュメモリー、さらにはDRAM、LCDドライバー、SoCなどすべての分野が超繁忙の状況に突入している。稼働率でいえば、140%に達する状況であり、これをカバーするためにアウトソーシング企業をフル活用しているのだ。

 現状で半導体設備投資の巨大化は前工程の装置メーカーを直撃しており、各社ともすさまじい投資を断行している。アドバンテスト群馬もまた今後に備え、必要な設備投資にはおさおさ怠りがない。後工程の要であるテスターの世界においても今後信じがたい増産ラッシュが訪れてくるのは必至であり、生産効率化、IoTシステムの導入、さらにはロボットの増強など、あらゆる手を使ってユーザーの要求に応えていく考えなのだ。

 「自分が入社したころには小規模であり、それほど名前が売れていなかった企業が一気に世界ステージに出ていく姿をこの目で見てきた。しかして、発展の基礎を作ったのは、軍隊式の徹底的な管理野球という社風ではなく、従業員の自由度を最大限生かし、のびのびと仕事ができる環境が形成されていったことだ。このため、どんなに苦しくとも我が社の社員は明るいのだ。一方で、安全対策は徹底的にやっており、死亡事故は1つもない。作業は1人または1カ所に集中させてはいけない。責任を分散させなければ精神的に参ってしまう。みんなで支える生産が最大の理想形といってよいだろう」(塚越氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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