商業施設新聞
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No.359

「地震と未来」


笹倉 聖一

2012/3/27

 日本周辺の地殻は、30年ほど前から地震活動期に入っているという。この間を振り返ると、1983年の日本海中部地震、94年の三陸はるか沖地震、95年の阪神淡路地震、2003年の十勝沖地震、04年の新潟県中越地震、05年の福岡県西方地震、07年の能登半島地震と新潟県中越沖地震、11年の東北地方太平洋沖地震と長野県北部地震など大きな地震が続いている。政府の地震調査委員会資料・防災白書によると、今後30年以内に巨大地震が発生する確率は、東海地震(M8.0、84%)、東南海地震(M8.1、62%)、南海地震(M8.4、50%)、東京直下地震(M7.0、70%)と予想されている。

 95年の阪神淡路地震を発生当時の確率で計算すると0.4~8.0%、04年の新潟中越沖地震はそれ以下の確率だったため、想定外の大地震だったことになる。95年以前は、神戸は地震がない地域と言われていたという。地震活動期に入った日本列島は、たとえ発生確率が1%でも巨大地震が突然起きるのが実情になっている。
 さらに悪い予想では、東海・東南海・南海地震が3連動すれば、11年の東北地方太平洋沖地震と同等以上のM9級になると危ぶまれている。

 私は高校時代まで、静岡県掛川市で過ごした。小学生であった70年代から東海地震に備えて防災訓練を繰り返してきたが、幸いにも30年以上経った今でも起きていない。日本では、地震の本震には備えをしているが、それに誘発される余震には備えをしていない。巨大地震の後には、必ず巨大余震が起こるという。
 11年の東北地方太平洋沖地震では、震度6強の本震が2回、これに対し震度5弱の余震が10回起きた。建物の倒壊は、本震によるのではなく、繰り返し起こる余震で建物がふらふらになり倒壊する例が多いという。東京直下地震では、15万棟の家屋が全壊すると予想(内閣府)されていることから、木造住宅の耐震性能向上は、喫緊の課題になっている。相対的に1階が弱い場合が多いという。

 住友ゴム工業(株)では、木造建物用の制震ダンパー(衝撃を弱め、振動が伝わるのを止める装置)を商品化した。これは、高減衰ゴムで地震の揺れを吸収し、建物の損傷を軽減させる木造住宅用制震ダンパー(商品名:MIRAIE「ミライエ」)で、建設会社や工務店に3月初旬から販売を開始した。
 建物1階部分のXY方向(建物を上から見て直交する2方向の壁部分)に各2枚ずつ取り付けられた制震ダンパーが地震の揺れに追従し、ダンパー上部に取り付けた特殊な高減衰ゴムが地震の振動エネルギーを瞬時に熱エネルギーに変換・吸収することで建物の変形を抑え、損傷を軽減させる仕組みである。同製品は、地震の揺れを最大で70%低減し、繰り返し発生する余震にも継続的に効果を発揮する。特殊構造と接着方法により、優れた経年耐久性を持ち定期的な保守維持作業が不要という特徴を持つ。製品の大きさは、高さ2585×幅800mmで、木造軸組2階建てと平屋住宅に適応する。
制震ダンパーを披露する住友ゴム工業の福本隆洋氏
制震ダンパーを披露する住友ゴム工業の福本隆洋氏

 同社常務執行役員でハイブリッド事業本部長の福本隆洋氏は、「95年に神戸工場、11年には福島工場が被災した当社は、ゴムを活用した制震技術によるこの製品を、1棟でも多くの家に届けたいとの思いで開発した。今回は新築用だが、後にリフォーム用も開発したい」と開発の経緯を説明しており、また「高い制震性能によって設置箇所数を4カ所に減らすことで、1軒当たり30万円未満(送料含む)の低価格を目指している」と話す。

 同製品は、加古川工場(兵庫県)で年間1万個の供給能力を持ち、それを上回る受注を得た際には新設備が必要になる。ミライエは、「未来」と「家」を掛けて命名した。家に加えて、外食店など木造りの商業施設の未来にも道を拓いてくれることを願う。
 一昔前は「天災は忘れた頃にやって来る」ものだった。皆が将来の地震に備え、様々な対策を講じている。故事にならえば、天災はやって来られないはずなのだが……。

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