VAIO(株)(長野県安曇野市豊科5432、Tel.0263-87-0810)は、ソニー(株)からPC事業を継承し2014年7月に設立された企業。そのPCの設計・製造技術を活用し15年からEMS事業も本格的に展開しており、現在引き合いが増加している。今回、執行役員専務の今井透氏とNB設計部 部長の橋本克博氏に話を聞いた。
―― 貴社のEMS事業について。
今井 当社はソニーからVAIOブランドを付するPC事業が独立するかたちで14年7月に設立され、自社ブランドのPCやスマートフォンを展開している。そして、それらIT機器で培ったノウハウを活かした新規事業として15年夏ごろからEMS事業を開始した。
―― 事業の特徴は。
橋本 PC事業で培ったノウハウを活かすことで、企画、設計、製造からアフターサービスまでワンストップで対応できる。また、技術のベースとなるPCの生産は、受注に応じて筐体の大きさや色をはじめ搭載部品のスペックやソフトウエアなどを組み合わせる「多品種変量」の製造技術が求められ、EMS事業でも多数のラインを構築するような少品種大量生産は志向せず、多品種変量生産に強みを持つ。
―― 国内EMSはコスト高になるイメージが。
今井 確かに単品のスポット価格だけを見ると、中国をはじめ人件費の安い海外の方がコストは低い。ただ、海外だと連携がうまくいかず、時間を要し品質も期待値を下回るというケースが散見される。それに対して、当社は初期段階から全工程のエンジニアが参加し、一緒に設計させていただいた製品は部品調達もサポートすることで、試作や量産までスムーズに行えると評価をいただいている。
また、当社のPC製品は大量生産が必要な一部のモデルは中国の大手EMSを活用しており、EMS事業においても受託品が大量生産フェーズに移行した場合、大手EMSを紹介するようなサポート体制もある。
―― 注力していることは。
パルミー(右)の生産や
アトムの基板実装などを行っている
橋本 ロボティクス製品やIoT機器への対応力を高めている。当社の本社・安曇野工場はソニーの犬型ロボット「AIBO」を生産していた工場で、ロボット製造に対して豊富なノウハウがあり、DMMのコミュニケーションロボット「Palmi(パルミー)」の生産、「鉄腕アトム」をモデルにしたコミュニケーションロボット「ATOM(アトム)」のプロジェクトでは電気系統メーンボードなどの基板実装(製造)と組立代行サービスを担当している。
―― 企業間の連携は。
今井 近年、スタートアップ企業の数が増え、大手企業も新規分野としてロボティクス製品やIoT機器を開発するケースが増えている。ただ、こういった新しい製品を生み出そうと思ったとき、ハード、ソフト、ネットワークといった様々な技術を高次元で融合させる必要があり、一企業だけですべてを開発することが難しい時代になっている。当社としても様々な企業と関係を構築していきたいと考えており、電子デバイス業界の方との連携もさらに深めていきたい。
―― 現状のEMS市場をどう見ていますか。
橋本 EMS業界は大規模な受託生産に対応できるメガEMSが存在感を増し、3Dプリンター技術の進化などにより少量生産に対応する企業も増えている。ただ、この中間の規模に対応するEMS企業は非常に少なく、逆に言うとこの領域に可能性があると見ている。しかし、こういった中間の数量に対応できる部品の製造方法や電子デバイスの供給スタイルについては最適な解がまだ見つかっておらず、様々な企業の英知を集めながら当社が取り組んでいくべきテーマだと思う。
―― 今後の方針を。
今井 前期(17年5月期)までは基盤をしっかり固め、当社のEMS事業を知っていただく段階であった。そして現在、ありがたいことに多数の引き合いをいただいており、対応をお待ちいただくケースも出てきている。当社としてはまずお話をいただいている案件を1つずつしっかりと対応していく。そのなかでロボティクスとIoT分野を当社の特徴として出していきながら、早期にPC事業と同じ利益規模を実現できるようにEMS事業の体制を強化していきたいと思う。
(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2017年6月15日号4面 掲載)