電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第237回

2019年にはスマホのディスプレーの50%を有機ELが占める


~著名アナリストの田村喜男氏は中国がサムスンを倒す日は近いとコメント~

2017/6/9

 「世界のスマホに使われるディスプレーは、2016年段階で16億枚であった。これが2021年には20億枚になるだろう。そしてこの段階で爆裂的設備投資を断行する中国勢は、現状にあって圧倒的な世界チャンピオンであるサムスンを打倒してしまう可能性があるのだ」

 こう述べるのはDSCCアジア代表の田村喜男氏であるが、彼は長きにわたって液晶をはじめとする電子ディスプレーのウオッチャーであり、アナリストとしても著名な方である。前記の談話は日本電子デバイス産業協会(NEDIA)が5月29日に開催したアクションセミナーの講演の席上のことであった。ちなみにこのセミナーは大入り満杯であり、立ち見すらできないほどの活況であった。有機ELに関心を寄せる日本企業がこんなにも多いのかという点で印象深かったのだ。

リードが主催するファインテックジャパンも有機EL関連の出展が増えている
リードが主催するファインテックジャパンも
有機EL関連の出展が増えている
 田村氏によれば、現在のスマホの販売ランキングは1位韓国サムスン、2位米国アップルであるが、3位にファーウェイ、4位にOPPO、5位がVIVO(いずれも中国勢)となっており、超高度成長時代は終わったものの、高機能化、高付加価値化の波が加速し、一方で新興国でも普及が進むことから、今後も確実に上昇していくという。

 「2019年段階を考えれば、スマホ向けディスプレーの採用比率は有機EL50%、液晶50%となり、そのあとは有機ELが断然の主役になってくることは間違いないだろう。一番大切な蒸着装置についてはキヤノントッキが圧倒的強さを誇っており、昨年段階で世界シェアは55%、2017年末には76%に達するだろう。サムスンがほぼ全面採用していることが大きい。これから伸びてくる中国BOEも使っている」(田村氏)

 さて、今後の有機ELディスプレーのトレンドは、何といってもフルアクティブディスプレーに向かっていくことだろう。そして画面の中心は18対9のサイズとなり、画面率はこれまでの66%から93%まで上がってくるといわれる。ちなみに、こうしたタイプの有機ELディスプレーは650ドルもするわけであり、こうなれば次世代スマホは15万円クラスも想定されるのだ。しかして、その価格になってもユーザーがついてくるかは神のみぞ知ることだろう。一方で、曲面型のカーブエッジが2019年ごろには50~60%を占めると予想されており、ガラスタイプは全体の30%に減少していくようだ。

 さて、問題の中国であるが、まさに有機ELのパネル工場の建設ラッシュが始まっている。2020年まで8工場に4兆円を投資するというすさまじさであり、地方政府が工場建設の投資額の80~90%を補助するともいわれており、ひと時代前の日本の公共投資に近いかたちになっている。

 台風の目であるBOEは、3713億円を投資し6G工場を立ち上げた。月産能力は2.4万枚のラインであり、当面はLTPSパネルを生産するが、当然のことながらフレキシブル基板を使う有機ELパネルの生産も計画している。第2期では4000億円を投入する構えだ。さらに綿陽市には約8000億円を投資し、80万m²の用地に6Gサイズの有機EL専用工場の着工に踏み切った。

 BOEの勢いを見た中国各社は次々と有機EL本格参入に名乗りを上げている。それらの企業はEDO、チャイナスター、Truly、天馬、ビジョノックスなどであり、まさに雨あられの有機EL工場建設が中国大陸で進むのだ。この勢いが続けば、偉大なるチャンピオンであるサムスンが倒されるのも近いのかもしれない。しかして、あのサムスンのことであるから、力には力という作戦で、中国に巨大工場を建てて対抗するということも想定内にはあるだろう。

 「有機ELはまさにディスプレーにおける一大革命の先頭に立っている。しかして、このディスプレーに問題がないわけではない。製品寿命として2年も持たない。焼き付きの問題もある。低消費電力の点で液晶にははるかに負けている。また、言うところの高精細化にも壁がある。こうした多くの問題点をはらみながらも、有機ELに向かっていく潮流はもう誰にも止められないだろう」(田村氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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