三重県といえば何を思い浮かべる人が多いのだろう。「世界遺産の熊野がすばらしい」という人もいれば、「ああ昨年に伊勢志摩サミットが開かれたところだね」という人もいるだろう。食通の人は何といっても全国No.1といわれる松阪牛であろうし、伊勢海老や南紀みかんを挙げる人もあろう。
しかして三重県にはもう1つの重要な姿がある。すなわち、工業という面で見れば、東芝半導体の基幹工場である四日市工場、シャープの亀山工場、富士通三重工場などの半導体、ディスプレー工場が林立しており、電子デバイス生産額はこの12年間全国1位を続けている。そしてまた、工場立地という点でも三重県はここに来てにわかに存在感を増している。2016年1~12月期の工場立地動向調査(経済産業省)によれば、三重県における企業の工場用地の取得立地面積は73haに急増し、茨城県に次ぐ全国2位にランキングされた。
「三重県は1世帯あたりの貯蓄率が全国1位、持ち家比率も全国7位となっている。ところが労働時間の少なさは全国2位であり、シンプルに言えば過剰労働をしないでも、きっちりと稼ぐすばらしさを持っている。それゆえに、75歳以上の健康率は非常に高く、肥満度指数は全国で一番低い。モノづくり、農業、漁業などバランスのとれた経済であり、色々な点で日本人の模範となる県民性といってよいだろう」
こう語るのは全国最年少の知事として知られている鈴木英敬氏である。はちきれんばかりの若さを武器に36歳で当選した方であるが、現在は2期目に入っており、まさに絶好調で県を切り盛りしている。語り口調も明確であり、何よりも頭の回転力がすごいと思えてならない方だ。
「三重県の製造品出荷額は全国第9位の10兆4092億円であるが、一方で1人あたりの製造品出荷額は全国第1位の『モノづくり県』となっているのだ。実に生産性の良い県であるといえるわけだが、モノづくり産業の付加価値をさらに追求していく考えだ。松阪を中心に立ち上がってきた航空宇宙産業の振興、全国に先駆けて取り組んだ水素エネルギー関連技術の開発、さらには四日市コンビナートの再活性化などが重要課題だろう」(鈴木知事)
ちなみに、鈴木知事の奥様は超有名な方だ。シンクロスイマーとして大活躍し、日本選手権7連覇を達成、01年の世界水泳福岡大会ではチームデュエットで堂々の金メダルを獲得した。その後アトランタ、シドニー、アテネの3つのオリンピックで銀、銅合わせて5つのメダルを獲得する。シンクロスイマーとして日本人個人が持つメダル数は歴代No.1なのだ。
現在は三重大学特任教授、日本スポーツ振興センターの事業助成の審査員などを務めておられるが、若いシンクロスイマーの育成にも注力されている。このようにお美しく、スポーツにおいても天才的な女性を妻に持たれる鈴木知事は、何と幸せな方であるかと思えてならなかった。
さて、鈴木知事は伊勢志摩サミットで延べ宿泊者数が初めて1000万人を超えたことから、今後は東京オリンピックに向けてインバウンドの誘致に全力を挙げていく考えだ。17年については、「お伊勢さんお菓子博2017」が4月から開催されている。三重県は21年に国体を迎えるわけであり、今後サミットのレガシーをいかに生かしていくのかが重要なのだ。
また鈴木知事は、15年10月から日本忍者協議会の会長を務めているが、世界に誇る日本ブランドとしての「忍者」の文化をもっと国内外に広めたいと思っている。ご案内のとおり徳川家康の配下にあった服部半蔵は伊賀忍者であった。横山光輝の漫画『伊賀の影丸』、さらには忍者ハットリ君、真田幸村の配下の霧隠才蔵もまた伊賀忍者なのだ。三重県が伊賀者として立ち上がり、甲賀、風魔、戸隠などと連携し、全国忍者ネットワークを作り、全世界に発信する。これまた重要な観光文化の発揚といえるだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。