子供のころの話であるが、開通前の東海道新幹線の試運転に乗ったことがある。新横浜から小田原までのわずかな路線であったが、衝撃を隠しきれなかった。目の前の景色がビューンビューンと飛んでいくのだ。その頃は「つばめ」「こだま」などの在来線特急にすら乗ったことがないのであるからして、車窓風景はまるで夢のような空間であったのだ。
世界の高速鉄道は急ピッチで増加しており、No.1の品質評価を得ている新幹線の存在はにわかに国内外の注目を集め始めているのだ。
「世界の鉄道関連市場は、現状で20兆円規模である。しかし今後は世界各国で高速鉄道導入計画が急ピッチで進み、20年後に50兆円の巨大マーケットになるだろう。日本企業の活躍は目覚ましく、高速鉄道に限定すれば世界シェアの約30%を占有しているのだ」
こう語るのは産業タイムズ社で事業開発部副部長の任にある甕秀樹である。彼は先ごろ、NEDIA(日本電子デバイス産業協会)が主催するアクションセミナーの講壇に立ち、これからの成長産業であるAI、ロボット、自動運転車、航空機、高速鉄道の将来展望について講演を行った。なかなかに詳細な調査をベースにした講演であり、盛り込まれている資料も興味深いものが多かった。筆者が一番興味を持ったのは高速鉄道の将来計画であった。
さて、鉄道車両メーカーの売上高トップ10を見れば、残念ながら日本勢の姿はそこにはない。断トツの存在が中国メーカーの中国中車であり、そのあとにかつての御三家であるボンバルディア、シーメンス、アルストムなどが続いている。日本勢のシェアは鉄道全体では10%未満にとどまっている。しかして部品供給という点ではかなり喰い込んでおり、安全・安心の日本製部品を使っていく傾向が強くなってきている。
車両搭載部品を見れば、日立製作所や東芝、三菱電機、富士電機のVVVFインバーター、空調システム、電源システム、変圧器、主電動機などが多く使われている。東洋電機製造のパンダグラフ、歯車装置、ナブテスコのブレーキ制御装置、ドア開閉装置、コンプレッサーなども有名だ。変圧器用オイルクーラーでは住友精密工業、ブレーキ制御、空転・滑走検査装置ではシンフォニアテクノロジー、大型変圧器ではタムラ製作所、鉄道車両用のノイズフィルター、コンデンサーでは双信電機などが活躍している。
IGBTの世界では日立パワーデバイス、三菱電機、富士電機がかなり強い。リチウムイオン電池はGSユアサと日立ビークルエナジー、ニッケル水素電池は川崎重工、といったように、長寿命かつ高品質という点で日本製の部品はまさに世界の信頼を得ているのだ。
56年ぶりに開かれる2020年の東京オリンピックにおいては、膨大な数のインバウンドがやってくる。是非とも日本の新幹線にいっぱい乗っていただき、そのすばらしさを感じていただきたいものだ。ちなみに筆者の私見でいえば、乗っていて実に楽しいのは九州新幹線である。ヨーロッパ風の内装が実にお洒落であり、デッキなどはオリエンタル風なデザインもすてきで、何よりも乗ってくる九州の女性たちが見目麗しいのだから、言うことはないのだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。