ルネサスCEOの呉文精氏(左)、
インターシルCEOのネイジップ・サイナエアー氏
ルネサス エレクトロニクス(株)は、2017年2月に米インターシルの買収を完了、3月に大がかりな組織再編にも着手し、新たなスタートを切った。4月11日には約2年半ぶりに国内でプライベートショー「Renesas DevCon JAPAN 2017」も開催し、次世代自動車分野に加え、マイコンに人工知能(AI)を組み込む「e-AI」と呼ぶ新コンセプトをを提唱した。2017年はグローバル企業への飛躍が問われる重要な一年となるなか、代表取締役社長兼CEOの呉文精氏、インターシルのネイジップ・サイナエアーCEO(ルネサス エレクトロニクス執行役員常務)がメディアらのインタビューに応じた。
―― ルネサスによる買収に関し、まず率直な感想を。
サイナエアー ルネサスとのコンビネーションは非常にシナジー効果が高く、エキサイティングである。ルネサスは世界トップクラスのマイコンを持っており、これに我々のアナログやパワーマネジメント技術を組み合わせることで、他に類を見ないような提案を行っていくことができる。また、ルネサスによる買収が決まったあとも、我々の社員に対して、デリケートな部分もしっかりとケアしてくれたことに感謝している。
―― 日系企業がシリコンバレーの会社を買うのは、難しさもあると思いますが。
呉 これまでの買収事例を見ていると、うまくいかない理由の多くが、日本のヘッドクォーター(本社)がブラックボックスになっていることだ。物事が密室で、かつ数人で決まっていることが多く、透明性が低い。ルネサスが今までそういった透明性を確保できていたかというと、必ずしもそうではない。インターシルの買収によって、優れた製品や技術を収めることができるのは重要だが、それと同じぐらいに、インターシルを起爆剤・触媒・カタリストにして、ルネサスが真の意味でグローバル企業になれるかどうかが問われている。
―― 3月には組織体制の見直しも発表しました。
呉 サイナエアー氏には経営会議のメンバーに加わってもらうし、3つある事業本部のうち、1つは彼に統括してもらう予定だ。必然的にその本部はシリコンバレーとなる。加えて、車載事業に関しても本部長は大村隆司執行役員常務だが、拠点はデトロイトやパリにも設けており、米国拠点は主に彼に見てもらうことになる。
―― 車載事業における今後の相乗効果のイメージはありますか。
呉 まず、インターシルにおける車載向けの売上高は現状でそれほど高くない。一方で汎用、産業機器用アナログ製品のシェアは高く、高収益体質を構築できている。よって、車載以外のところを今後どううまくやっていくかが、大きなカギを握る。
付け加えると、国内でアナログのエンジニアの人材確保は容易ではなく、これに対してインターシルはすでに社内に400人規模のアナログエンジニアを有しており、これは非常に大きな意味を持つ。我々は高崎にアナログ・パワーの開発センターがあるが、今後は基本的にサイナエアー氏が統括していくことになる。よって、サイナエアー氏には汎用のマイコン、パワー・アナログ製品のほとんどを見てもらうことになり、今までインターシル単独の時代に比べて、売り上げベースで3倍以上の規模をマネジメントしてもらうことになる。
―― ルネサスは拠点の集約など生産体制の見直しを進めてきましたが、買収によって、生産拠点がまた増えることになります。これに対する懸念は。
呉 インターシルはフロリダに6インチ対応の前工程拠点を有しているが、高品質なニッチ製品に特化しており、収益的にも高いレベルをキープしている。
一方で、ルネサスは国内に6インチの拠点を4カ所有しているが、長期的に競争力を維持していくのは難しい。高知はすでに閉鎖の方針を示しており、残る3拠点についても、どういったかたちでビジネスを維持していくのか、引き続き検討していく。一方で、8インチと12インチ工場に対しては、足元で設備投資を行っているほど需要が強い。
サイナエアー フロリダに前工程拠点を有しているが、多くは外部アウトソースを使った生産体制を構築できており、前工程は85%(ウエハー能力ベース)、後工程は99%を外注している。
(聞き手・副編集長 稲葉雅巳)
(本紙2017年4月27日号1面 掲載)