商業施設新聞
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No.351

活発化する新宿駅周辺開発


登坂 嘉和

2012/1/24

 日本経済が右肩上がりだった若かりし頃には、伊勢丹新宿本店へ紳士服を求めて通ったこともあったが、近年は低価格スーツの登場で、専らそれらを身に纏うライフスタイルに転向している。以前、新宿駅を中心とする百貨店戦争なる記事を目にしたこともあるが、新宿駅周辺の百貨店を見て回ると、各店舗の現状は、激戦というよりも業態を超えた競合が進んでいるように思われる。

 新宿駅は、JR山手線と中央線、埼京線などに加えて東京メトロ丸の内線、都営地下鉄大江戸線、小田急線、京王線が乗り入れ、やや離れて西武新宿線の駅がある。1日あたり約340万人の乗降客が利用する国内で最大規模のターミナル駅だ。日中の来街者は、ビジネスや学生を除くと百貨店や家電専門店、ファッションビルでの買い物客が多くを占め、夜は日本一の歓楽街である歌舞伎町などへ飲食や娯楽、観劇、ホテル宿泊などを求めて人々が集まる。

 先日、駅ビルの百貨店やルミネなどの現状を把握するため、各店のフロアを走破した。小田急百貨店と京王百貨店は、新宿に本店を構え、沿線住民をターミナル駅に集客する事業戦略をとる。新聞の折込みチラシ配布や車内の吊り下げ広告などの宣伝を行い、さらにポイントカードによるロイヤルマーケティングを展開している。
 小田急百貨店は、小田急ハルクと合わせると伊勢丹新宿本店に匹敵する大規模店を運営する。小田急沿線は、世田谷区や川崎市など可処分所得が高い高級住宅地を経由しているため、高額衣料品やファッション雑貨、美術工芸品などを充実させ、アッパークラスの飲食店を上層階に集積している。京王百貨店は、小田急百貨店の半分程度の売り場となるが、近隣の杉並区や世田谷区の住民を対象とした、地域密着型の店舗運営が特徴のようだ。
新宿駅西口の小田急百貨店と小田急ハルク
新宿駅西口の小田急百貨店と小田急ハルク
 両社は新宿駅周辺で、京王プラザホテルやハイアットリージェンシー東京などを運営しており、婚礼や祝い事などと合わせた顧客の囲い込みを行っている。ただ、両店の中心顧客は中高年者が多くを占めており、次世代を生き残るための戦略が求められる。
 一方、若者はどこへ向かっているのか。
 新宿駅を構成するルミネ1とルミネ2、ルミネエストは若い人々で賑わっている。ルミネ1とルミネ2は、駅南側の東西に商業ビルを構えて、若い女性が顧客の中心を占めている。店舗は「ユナイテッドアローズ」「トゥモローランド」「フランフラン」などの最新ファッションと雑貨、生活密着型の無印良品や成城石井なども出店している。さらに、若者に人気の演芸場「ルミネ ザ よしもと」といった幅広いテナントを導入していることが高い集客力に表れているようだ。
 ルミネエストは、1964年にオープンした駅ビルだが、東口にアクセスする唯一の通過点でもあるため、若者から中高年の利用者が目立つ。低層階はレディスファッション、中層にメンズ用品、高層階に日常型の飲食店を集積していることも背景にあるようだ。

 JR新宿駅では、2012年春から地下部分の改札内北通路を拡幅して自由通路とする工事に着手する。東の起点となるルミネエストと西側の小田急百貨店は、地下通路の竣工に合わせて既存建物の改築を検討している。さらに新南口では、JR線を跨ぐ甲州街道高架橋の架け替え工事と合わせて、駅機能と自動車・高速バスなどが発着する交通ターミナル・JR駅ビルを建設している。
 新宿駅は百貨店や商業施設が一体となった巨大ターミナル駅のため、来街者は東口の伊勢丹や歌舞伎町、西口の副都心や「思い出横丁」、新南口の東側にあるタカシマヤタイムズスクエア、都庁前のハイアットリージェンシー東京など、地区別あるいは目的別に訪れている。新宿区では、循環バスのルートを見直し、利便性、回遊性を高める計画を進めている。
 行政や企業が来街者を誘導して、街の活性化を図る政策に対して、若者たちが独自に新たな娯楽のスポットを創出するエネルギーにも注目したい。
新宿駅新南口で建設中のJR駅ビル(右)
新宿駅新南口で建設中のJR駅ビル(右)

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