「有機ELの本格開花の時代が始まった。現状のFPDは液晶が90%、有機ELが10%となっているが、2020年には有機ELが躍進しFPD全体の50%を占めることになるだろう。有機ELについては、投資効率が良くないため液晶に比べて3倍投資しなければいけない。しかし我が社は巨大投資を断行していく」
力強くこう述べるのはLGディスプレイのCTOであるIn-Byeong Kang氏である。世界最大のFPD関連の展示会で知られるファインテックジャパン(2017年4月5~7日、主催:リード エグジビション ジャパン、会場:東京ビッグサイト)の基調講演におけるコメントである。
LGディスプレイは今やFPD分野では総合世界チャンピオンであり、有機ELについても小型、中型、大型の3分野で制覇を狙っている。現状の有機EL分野ではサムスンがギャラクシーへの搭載で抜け出しているが、LGの場合はフルラインアップしながらも、とりわけテレビに代表される大型で勝負をかけていくようだ。
「壁紙と同じ薄さの超大型テレビ向け有機ELの開発に成功している。クリスタルOLEDと呼ばれるこの製品は、超極薄でどこへでも持ち運び自由であり、画面そのものが振動するスピーカー機能を持たせている。ソニーはこのパネルを採用し、近く日本で新タイプの有機ELテレビの本格発売に踏み切るのだ」(In-Byeong Kang氏)
LGによれば、これまではガラスタイプの有機ELが中心であったが、今後は軽量のプラスチックの有機ELが主流になっていくのは間違いないとしている。LGの有機ELは米国において圧倒的なシェアを有しており、今後巨大投資も構えることから、世界の有機ELステージを引っ張っていく存在にのし上がった。欧州においてはフィリップスがLG製を採用しており、日本勢もパナソニック、ソニーが採用を決めている。中国勢もハイエンドの大型であればLGを使うしかないのだ。65インチ以上の勝負ではまず勝てるところはないだろう。
「しかして、有機ELにはまだまだ液晶に比べて達成できないところが多い。フルHDの解像度はまだできない。消費電力も液晶に比べてかなり大きい。ただ今後は多くの新材料が用意されており、開発集中でこれを乗り切っていけるだろう」(In-Byeong Kang氏)
LGは得意とする大画面で最先行する一方、携帯/スマートフォン(スマホ)向け有機ELにも注力しており、最近では中国シャオミーのスマホに搭載されている。IoT対応のアップルのスマートウオッチはほとんどがLGディスプレイの有機ELを使っている。今後はハイエンドの自動車に搭載することが期待され、高級感を出すことのできるディスプレーとして珍重されるだろう。ライバルのサムスンは小型に集中しているが、LGの場合はオールラウンドで戦うことから、有機ELにかける決意は並々ならぬものがあるといえよう。
「ああ、かつては有機ELの開発で日本勢は先行していたのに、LGやサムスンにはとてもかなわないのね」とため息をつきながら基調講演の会場を後にし、展示会を見に行ったところ、とんでもないものが目に入ってきた。それは、半導体エネルギー研究所が開発に成功した、81インチ8Kというどでかい有機ELである。6×6マルチディスプレーの画面は見事なものであり、日本勢はやはり開発という点ではすばらしいものが出せるのだな、との思いで胸がいっぱいになった。
半エネ研が開発したサプライズの
81インチ8K有機EL
今回の有機EL8Kパネルはフルハイビジョンの16倍の解像度を映像で映し出せる。有機EL発光層の光を基板側から取りだすボトムエミッション方式で作る技術を確立したのだ。この開発成果は大きい。すなわち、1つの工程で十数インチの小型から75インチ以上の大型まで幅広く製造できる技術を有効なものにしたのだ。
また一方で、世界初の印刷法による有機ELに挑戦しているのが日本のJOLEDだ。3月にドイツ・ハノーバーのCeBITに参加し、オール印刷法の4K、21.6インチの有機ELパネルを展示したところ、一大センセーションを巻き起こした。これまでの蒸着法を打ち破る印刷法で作られており、300ppiまでは十分に実現できる。また、色彩も鮮やかであり、画像の移動度も問題ない。
「JOLEDの4.5Gパイロットラインは、ジャパンディスプレイ石川工場内にある技術開発センターに構築されている。EL工程からモジュール工程までの一貫ラインを作り、量産へのめどをつけていく」
こう語るのはJOLEDの取締役である田窪米治氏である。同社は当初、中型のみを狙うという戦略であったが、21.6インチができたことで、大票田の大型テレビにも展開できることが分かった。最終的にはスマホなどの小型での採用も狙っているという。
LGとサムスンが突っ走る有機ELの世界ではあるが、日本勢の今後の一気の追い上げに期待したいと思っているのは筆者ばかりではないだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。