電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第227回

「ものづくり日本に誇りを持ち、ニッチオンリーワンで戦い、海外には進出しない」


~女性比率50%、定年なしで72歳の人までが働く橋本電子工業の哲学~

2017/3/31

 「ものづくりの基本はすべてこの日本に備わっている。アジアの新興国に進出するつもりは全くない。外国を圧倒するニッチオンリーワンの製品を開発・量産していけばいいのだ。安価で品質の悪いものを量産していくようなステージで勝負するべきでない」

 事もなげにこう言い放つのは、橋本電子工業(三重県松阪市高須町3866-12)を創設し、現在も代表取締役社長として陣頭指揮を執る橋本正敏氏である。橋本氏は松阪に生まれ育ち、その地にあって1988年に34歳の時に創業し、卓抜したアイデアで次々とユニークな技術を立ち上げてきた。地元大手企業でハードおよびソフト設計の技術を磨き、「やりたいことをやる」との思いでベンチャー起業し、34年の歳月を戦ってきた。

 同社がその名を上げたのは大手企業から受注した劇場用の床制御システムである。非常にコントロールしにくい劇場のステージを可動させる方式を編み出し、まさに匠の技を駆使し、アナログ/デジタルの技術をフル稼働させ、これまでに青森から福岡まで全国110カ所のステージ制御システムを作り上げてきた。何しろ1mmの段差があってもダメという世界である。しかも、劇場ごとに要求される仕様はみな違っており、一品ごとにフルカスタムで作り上げていかなければならないのだ。

 その後、プリント基板組立量産を開始、入退室監視装置などのセキュリティー商品の開発、さらには半導体リレー検査装置開発などの分野にも踏み込んでいく。2007年には医療機器製造販売業も取得し、畜尿検査装置、頸部栓子検出装置の開発などまさにオンリーワンともいうべき分野を次々と開拓していく。

 「社長の言う心訓である(1)夢と勇気、(2)誠意・篤行、(3)創造・啓発の精神を胸に置き、91人のメンバーは団結して戦ってきた。技術立国日本の一端を担うべく、エレクトロニクス技術をコアにファインメカ、バイオセンサーなど異分野の先端技術を融合し、これまでにないものを作り上げていくことこそ、我が社の真骨頂なのです」

橋本電子工業の専務取締役 橋本耕成氏
橋本電子工業の専務取締役 橋本耕成氏
 穏やかな顔をしてしかし眼光だけは鋭くこう語るのは、橋本代表の次男である橋本耕成氏(専務取締役・経営戦略室室長)である。創業者の精神を引き継ぎ、現在約10億円の年商をここ数年のうちに15億円まで引き上げていく商品開発と販売戦略を担うのが橋本専務の役割なのだ。

 これまでは産業向けの電子制御機装置開発、検査機器・装置およびシステム開発、メカ成型品開発設計などが全体の50%を占めていたが、今後は同30%を占める健康・医療分野を拡大させていきたいという。そしてまた、民生分野にも踏み込むべく開発されたのが「Peonish FOR MEN」という芍薬消臭抗菌ミストである。

 「これは男性をターゲットに、着たまま消臭できる製品である。女性が好きな男性の香り、それは強い香水ではなく、実は石鹸・洗剤の香りといわれている。理由はその香りよりも清潔感。Peonishは地元三重鈴鹿の農家で栽培している芍薬から天然成分を抽出している。一般的な香水は賦香率15~30%であるが、Peonishは日本人の女性が心地よく感じる濃度を研究し、0.1%の配合にした。すれ違う時にそっと香るくらいが、お洒落な男性の濃度ですね」(橋本専務)

 消臭抗菌剤製造にも乗り出した同社のバラエティー戦略は、これからも続いていくことだろう。そして生産増強はあくまでも地元松阪で今後も実行していくと明言しており、外国での生産には目もくれない。従業員の50%は女性が占めており、今後も女性パワーをフル活用していく方針を貫いていくのだ。

 「女性力活用とともに重視しているのが、中高年の活用である。大体が、我が社には定年というものがないのです。72歳で頑張っている人もいる。日本でものづくりに誇りを持って戦う。そこには男女の区別はなく、年齢の壁さえないのです」(橋本専務)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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