“クラウド・コンピューティング”という言葉に接する機会が増え、その意味やシステムの中身が分からないままに聞き流すことが多かった。「これではいかん」と自分を戒めていたところ、2010年に創業100周年を迎えた(株)内田洋行(東京都中央区)が、教育・オフィス・情報を事業の3本柱に掲げ、「教育クラウドサービス」を開始するという発表会に参加した。日頃、流通業や製造業などの業界を取材して回ることが多いため、馴染みが薄い教育界を勉強する良い機会ともなった。
クラウド・コンピューティングの「クラウド」(雲)とは、ネットワーク(通常はインターネット)を表し、ユーザーはその雲の中から様々な機能やサービスを持ち出して利用できることから、そう呼ばれるようになったとされる。発表会では、内田洋行がタブレット端末、電子黒板、デジタル教科書、デジタルコンテンツ、クラウドサービスを備えた未来型の教室「フューチャークラスルーム」(東京と大阪に設置)において、「遠隔教育」「協働学習」「プロジェクト学習」が教師と生徒間、あるいは生徒同士で実演された。
遠く離れた場所にある教室間でも、クラウド・コンピューティングにより、同一の主題に対して音声、文字、画像、画面を通じて話し合いながら学習できるというもの。当日は、気象と天気に関する勉強の取り組みだった。テレビ会議システムをクラウドによって高機能化した様にも見え、商業施設や流通産業の会議、研究機関の共同研究、大学の講義・研究にも応用できる。
小売・流通業で、デジタル情報化が進んでいるのは当たり前の話になりつつあるが、教育界でも進んでいる。ところが、学校教育では情報通信技術(ICT)化が求められ、導入が進む一方、現場では様々な問題が生じている。教育用コンピューターや電子黒板、プロジェクターなどのハードウエアが急速に整備されたものの、教育用コンテンツやアプリケーションがまだ不足していること、またICTを活用する際に、システムトラブルへの対応や授業用のコンテンツ制作業務などで教員に大きな負担がかかっていることから、ICT支援の充実が求められている。
成績や出欠席管理などの校務処理業務は、コンピューターを活用して効率化することが求められているが、校務システムの普及や導入後のセキュリティ対策、日常的な支援体制の充実はまだ発展途上の段階にある。要するに、機器は充実しているが、使いこなす人材教育、問題発生時の支援体制が未整備であるということである。教育界は、商業施設などの業界ほどには目に見えた利益を生まないため、整備が後回しになったとすれば分かり易いが、シンガポールや韓国など教育に熱心な国では教育でのICT導入・普及が早く、国家戦略の1つになっている。
日本政府のIT戦略本部も、遅ればせながら2020年までに「児童生徒1人1台の情報端末の整備」や「デジタル教科書・教材の導入」などを計画しており、内田洋行は教育界のこの情報通信化とクラウド・コンピューティングを支援するために、新たなサービスの提供開始を決めた。これにより、授業支援、校務支援、地方行政向け業務管理システムなどを提供し、学校と学校、学校と行政、学校と地域をつなげる、新たな教育、新たな地域交流を支援するという。
学校が地域の情報発信拠点としての役割を果たすため、学校と家庭(保護者)を結ぶ「情報掲示板」や「緊急連絡網」などの情報コミュニケーション基盤を整備することへ関心が高まっていることに対応するものだが、商業施設の高齢化社会に対応するための販売手法や、流通システムの効率化にも応用展開できるのではないかと感じた。 |
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内田洋行の本社(東京都中央区)に設置された「フューチャークラスルーム(東京)」 |
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