日本のジャーナリストはとにかく崩壊という言葉が大好きである。ひと時代前は厚労省や国交省を名指しで批判し、「つぶれろ。馬鹿野郎」とひたすらののしっていたのだ。本屋に行けば、「シャープ大崩壊」「サムスン帝国の凋落」などといったセンセーショナルなタイトルの本がズラッと並んでいる。
そしてハイエナのような根暗ジャーナリストは、今や経営クライシスに喘ぐ東芝を格好の対象と捉え、ひたすらぶっ叩いている。「東芝解体の日は近い」「東芝崩壊のA級戦犯は誰だ」「政府と癒着して原子力温存があだになった」という記事が毎日のように怒涛のラッシュとなって出てきている。
しかして、かねて東芝の応援団長を自負する筆者は、彼らとは一線を画している。結論として言えば、それでも東芝は大復活するのである。
筆者は先ごろ『日・米・中IoT最終戦争 日本はセンサーとロボットで勝つ』という本を東洋経済新報社から発刊させていただいた。
この本の中で、東芝のフラッシュメモリーがいかに優れているか、そしてまた必ずや世界制覇するという視点で最新分析リポートを書いた。詳細はこの本を読んでいただくしかないが、東芝のメモリーの3次元立体技術は200層まで視野に入れており、64層で戦うサムスンは歯が立たない。ましてや次世代のEUV(極端紫外線)露光においてはほぼ独占的な技術で先行しており、ライバルメーカーには2年以上の差をつけている。
設備投資計画もとんでもない。1.5兆円を投じる三重県四日市の新工場(Y6棟)はこの2月9日に着工した。情報筋によれば、その次のY7棟も早ければ来年にも着工する可能性があるというのだから、ただごとではない(建設地は未定)。債務超過で上場廃止といわれる東芝がサプライズの3兆円投資を構えるわけであり、これが断行されれば東芝の売り上げは再び10兆円近くまで上がっていくことも考えられるのだ。しかして、東芝半導体とも言うべき新会社が作られ分社化されるのであれば、東芝トータルの売り上げはそこまでいかないかもしれない。
そんな金がどこにあるのか、という思いの方が多いだろう。しかし、筆者はいわゆる100年企業の中でも三菱重工業、新日鉄住金、JX日鉱日石、日立製作所、そしてまた東芝は、純然たる民間企業とは思っていない。悪く言えば政府と癒着する企業であり、良く言えば100年以上もの間、日本という国家の政策とともに歩んできた企業なのである。
東芝があのどうしようもない原子力から手を引けないのは、日本国政府が決してそれを止めないと言っているからだ。その代償として政府は、あらゆる手を講じて東芝支援に全力を挙げるだろう。政府の意向を受けてメーンバンクのSMBCの頭取をはじめ各銀行は、東芝に対する融資は決して手を抜くことはない、とさえ言っている。
この日本に存在する新聞記者、雑誌記者をはじめとするほぼすべてのジャーナリストが「東芝滅亡」の論調で、どのような記事を書こうとも、不肖泉谷渉のペンは決して東芝ネガティブ論に傾くことはない。大体が、東芝・ウエスタンデジタル連合は今や強敵サムスンを打ち破り、フラッシュメモリーの世界トップシェアを獲得している。なぜ大手マスコミはこれを強調しないのだ。
かのトーマス・エジソンが作った世界最古の電機会社であるGEは、時代にあわせて変化し、見事に今日まで生き残ってきたのだ。
明治8年に創業した、日本最古の電機会社である東芝の灯も消えることは決してないのだと深く信じている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。