「ソニー半導体の中核である画像センサー、つまりCMOSイメージセンサーの本当の実力を知らない人が多い。最近になって半導体の収支は大きく改善しており、かねてから噂されている熊本での工場新設が具体化してくる可能性もある」
クリクリとした目線でこう話すのは、電子デバイス産業新聞で編集長の任にある津村明宏である。現状にあって東芝が解体の危機にさらされ、株価のストップ安が続くなかで、ソニーの株価はじりじりと上げてきている。2月3日の時点では前日比231円高の3600円となり昨年来の高値を付けた。津村編集長が指摘するまでもなく、頭の良い投資家は皆ソニーのスマートフォン向けのCMOSイメージセンサーが圧倒的に強いことを知っているのだ。
2017年3月期の連結業績予想によれば、得意とする映画事業で1000億円を超える損失が発生しているにもかかわらず、営業利益は2400億円を計上する見込みであり、これは大健闘といってもよいだろう。重要なことは4Kテレビが絶好調で推移しており、今や世界トップを走るゲーム機、さらにはスマホを合わせたエレキ部門の利益が前期比4割も増えてくることだ。いわば、ソニーの本業回帰が明確になってきた。これに赤字幅の多かった半導体部門が黒字に転じてくれば、17年度は5000億円以上の利益を出す可能性もあるのだ。
ソニー半導体の生産を陣頭指揮する上田康弘氏(ソニーセミコンダクタ
マニュファクチャリング社長)
「ソニーはCMOSイメージセンサーで世界シェア30%強を獲得しているとみている。スマホ市場でも同等のシェアを持ち、特に高画素領域に強い。最先端のデジカメ向けに絞れば、もっとシェアは高いだろう。技術で圧倒的に先行するだけではなく、設備能力の備えも競合に対して抜きん出ている」(津村編集長)
ソニーのCMOSイメージセンサーの強みは、裏面照射および積層技術という独自のテクノロジーを確立したことが大きい。中国スマホも最近では安物からハイエンドにシフトする傾向が強く、これがソニーには追い風になる。また一方で、1台のスマホにCMOSイメージセンサーを3個使いする風潮も広がってきた。熊本地震の影響などもあり、半導体部門は530億円の赤字とみられていたが、これが一気に190億円まで縮小するのだ。
IoT時代を迎えて、ソニーのCMOSイメージセンサーは車載にも積極展開する。安全走行運転、自動走行運転などには必須のデバイスとなる見込みであり、0.005ルクスという真っ暗闇でも見えるセンサーを作れるのは同社だけなのだ。最近では100℃を超える高熱にも耐えられるものを作り上げている。さらに、業界で初めてセンサー内部の信号回路にハイブリッドAFを内蔵した高速版の2250万画素の新センサーも市場に投入している。また驚くことなかれ、ハイエンドのデジカメ向けにはDRAMを内蔵したCMOSイメージセンサーも作り上げている。
「次世代車載IoTをにらんで、ティア1大手のデンソーはソニーの車載用画像センサーを採用することを決定した。ソニーは、車載分野が業績に寄与してくるまでは相応の時間が必要、と説明しているが、ここまで来ると、世界で首位争いを演じる大手自動車メーカーのトヨタが全面採用することも現実味を帯びてきた。こうなれば一気に弾みがつくだろう」(津村編集長)
こうした状況を勘案し、いよいよ設備能力が逼迫してくることも十分に考えられるのだ。現在の同社の生産能力は300mmウエハー換算で月産8万5000枚を超えているが、この1~3月期は8万枚を上回ってくるのは確実としている。そうなれば、いよいよ10万枚を超える増産体制も想定内にあるわけであり、まずは東芝から入手した大分工場をフル活用していくことになるだろう。
そして、かねてより計画検討されていた熊本新工場も具体化の可能性が強くなってきた。現状の熊本工場は敷地26万6000m²に建屋19万7000m²があり狭隘化している。就業する人員も1万人に近づいており、ここでは300mmウエハー換算で月産2万4000枚を処理しているが、ほぼフル稼働となっている。この熊本工場の近接地区に用地手当てを行い、新たな新工場棟を建設する足音が高らかに聞こえてきたといえるだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。