商業施設新聞
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No.345

自治体主導で“オラが街の商業施設”を造ろう!


大塚 岳史

2011/12/6

 地方都市の中心市街地が空洞化していると言われて久しい。中心市街地活性化基本計画も、2011年6月現在で105市・108計画が認定されているが、劇的に活性化を果たした話を聞かない。賑わいの創出には、人の交流は欠かせない。すべての自治体に観光資源があるわけではないから、やはり商業施設が中核になる。しかし、商圏人口、物流などを考えると、民間企業がこぞって各地の地方都市に出店することはなかなか難しい。では、どうすれば賑わいの中心となる商業施設ができるのか?

 そこで提案したいのは、“オラが街の商業施設”を自治体が主導権を握り、地域と一体となって造ることだ。企業誘致ではない。企画から運営まで、自治体が責任を持って行うことが前提条件だ。社会インフラである商業施設を造り、運営していくことは「行政サービス」と割り切るぐらいの心意気を持って欲しい。しかもスピード感を伴ってだ。年度予算などに捉われてはいけない。法制面を無視した暴論は承知だが、極力、現在でも各自治体が行っていることをベースに提案してみる。

 商業施設づくりに欠かせないのは、土地、デベロッパー、そして物流である。
 土地は、公共用地があるし、利用頻度の低い公共施設を転用することも可能だ。また、立地条件によっては民有地を賃借してもよい。出店者だけではなく、民有地の提供者にも税制面で優遇措置が取れるはずだ。公共用地を賃借する定期借地権の逆設定で、50年にわたり土地所有者に賃料を払ってもよい。長期にわたって施設を運営する、という責任も生じるだろう。
 物流は、公用車としてトラックを確保。また、地元の運輸企業とタイアップした第三セクターを設立してもかまわない。物流の拠点施設は、誘致の捗らない工業団地に、公共事業として建設する。規模によっては、民間に賃貸することも可能だ。
 そして、デベロッパーは企業誘致を図っているセクションが担当する。形をつくってから、指定管理者制度で民間に委託してもよい。ただし、床を埋めるために企業が出店するのを待っているだけではダメだ。住民の意見をまとめ、出店して欲しい企業に徹底してアプローチする。もし出店が実現しなかったら、陳列棚の1~2列分であっても商品供給を受けるまで粘る。その陳列棚の集積は、地元が求めるセレクトショップとなる。

 もちろん、地元の企業や商店が出店する場合には、自治体の外から入居するテナントより優遇する。生鮮食品は、観光客向けの市場と商店を融合させよう。土産物、名産品も館内で販売するが、コーナー化する部分と一般の商品と混在させることを忘れずに。地産地消も重要なテーマだから、地元の人にも地元の食材を食べてもらおう。

 次に施設づくりだが、美術館、観光物産館など公共施設と同様に地元をアピールする外観を採用しよう。住民が誇りを持てる世界に1つだけのデザインを追求する。また、耐震性に優れた施設とすることが絶対条件だ。再生可能エネルギーの利用も欠かせない。民間に対する導入推進の補助金を活用し、太陽光発電、風力発電、床発電システムなども導入する。メガソーラーを整備して、直接導入してもOK。館内はすべてLED照明を採用。もちろん、水、空調にも気を配りたい。緑化も忘れずに。民間に導入を推進するお手本を構築しよう。
 館内には、公共サービスも導入する。役場の窓口を設置。また、公民館機能としてイベントホール、集会室を設けて地域に開放する。本当はサービス向上のため、こうした機能をテナントの1つとして扱いたい。サービスが悪ければ、撤退もやむなしだ。仮にフロアは異なっても、売り場との連動性は確保する。そのためには、フードコートやカフェなどを併設し、人が集まる空間を提供する。図書館機能は、書庫を持たずに図書館から取り寄せて貸出・返却を受け付ける。美術館、博物館の企画展示を紹介し、一部を商業施設の館内で先行公開してもよい。医療モールも欠かせない機能で、開業を希望する医者を誘致する。公的病院のサテライト機能を導入するのも一案か。
 地下には、巨大な蓄電池、貯水槽を設置。屋上には、広場を整備しヘリポートとしても利用できるようにする。つまり、商業施設であると同時に、災害時には避難拠点にもなる。

 サービス面では、買い物のポイントを、ハウスカードを持つ地元の人にはキャッシュバック、観光客には観光施設の無料入場券や交通機関の無料券などと交換する。ホテルとタイアップした宿泊割引券でもかまわない。館内に観光スポットのコーナーを設け、スタンプラリーをやり、その景品と組み合わせても面白い。
 それから、買い物弱者対策として、市内循環バスを増やしたり、物流のトラックを上手に配して宅配サービスも行う。公用車を電気自動車にして送迎に利用しよう。街中に充電ステーションを設けて、環境に優しい街づくりも同時並行で進めていく。

 もちろん、商業施設である以上、利益を追求する。しかし、それは行政サービスの投資に対する対価であり、投資以上の利益は次の商業施設づくりに公共事業として投資する。歳入・歳出の名目は、財政課におまかせ。拠点を作ったら、より地域に密着した店舗を造り、ドミナント展開につなげる。また、社会福祉に再投資すれば、食事サービス、送迎サービスは商業施設の機能とリンクさせることもできる。
 繰り返しになるが、商売を徹底することは、より良い公共サービスの提供が目的。そして、自治体の真の役割はコーディネート業務だ。自治体が、民間の活力を街の活性化という目的のために有機的に連携させる。金を儲けるのではなく、自治体の責任で商売という投資回収を本気で実施することがポイントだ。
 加えて、公共事業と民間事業が上手に交流すれば、新たな雇用確保にもつながり、若者が大都市に流出するのを防げる。何より、住民の誇りとなる施設が誕生し、人が集い、街に賑わいが生まれる。

 さて、この絵に描いたモチは食べられるのだろうか。どこかの自治体で検討してもらえたら幸いである。
渋谷を象徴するSHIBUYA 109のように、その街を代表する商業施設が次々と誕生して欲しい
渋谷を象徴するSHIBUYA 109のように、その街を代表する商業施設が次々と誕生して欲しい

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