一見したところ静かで穏やかな日本人は、ギャンブル好きには思われない。ところが、である。この国には競輪、競馬、競艇、オートレース、さらにはパチンコが日常化しており、実は世界一のギャンブル大国なのである。今はかなりトーンダウンしたが、パチンコ業界の売り上げはピークで30兆円を超え、何と日本の外食産業に匹敵する規模になってしまったことがある。
筆者もたいがいのギャンブルには手を染めており、とりわけパチンコのエヴァンゲリオンにははまりまくりなのである。綾波レイちゃんが画像に出てきただけでドキドキするこの胸のときめきをどう抑えようか、と真に思うことがある。
それはともかく、ギャンブル依存症が蔓延するわが国ニッポンにはカジノは必要がないという声は多い。しかして、これだけインバウンド(外国人観光客)が急増しているのだから、受け皿としてのカジノは必要と主張する人たちも増えてきた。カジノ新設誘致には大阪、横浜などが名乗りを上げているが、とりわけ大阪万博誘致に力を入れる大阪はイの一番にも日本初のカジノを作りたいという気持ちが強い。
「大阪のユニバーサルスタジオの動員数は世界ランキング第4位であり、東京ディズニーシーを抜いてしまった。NHK大河ドラマの真田丸が大ヒットしたことで大阪城を訪れる人も多い。海外からのインバウンドには大人気であり、過去最高の来場者を記録した。そして勢いに乗る大阪は、いよいよ2025年の万博に向けて全速全開で発進するのだ」
高らかにこうコメントするのは、若くして大阪市長に選ばれた吉村洋文氏である。吉村市長は、大阪圏エリアは800万人の経済規模があり、人が集まるプラットフォームは全国随一であり、GDP成長率は東京を抜いてトップにのし上がったと強調していた。インバウンドは日本ブームで今や2400万人を超えてきたが、そのうち約半分の約940万人が大阪を訪れている。
「20年後には東京‐大阪間はリニアモーターカーで1時間で来られるようになる。その前に北陸新幹線が直結してくる。第2京阪の淀川左岸線の延伸工事も着工が決定した。大阪はますます交通至便なロケーションに変わっている」(吉村市長)
大阪市および大阪府がまさに命を賭けるという思いで注力しているプロジェクトが、「うめきた2期のまちづくり」である。これは大規模埋め立て地の夢洲(ゆめしま)を世界最大クラスのIR(統合型リゾートエリア)として世界に発信しようとしているのだ。国家戦略特区の認定を受けたことで弾みがついてきた。
IR用地としては70haを予定しており、ここに多くの特定複合観光施設が設けられるのだ。国際会議場、大型レクリエーション施設、大型カジノ、国際展示場、大型宿泊施設、大規模商業拠点が一気に建設されていく。また8haの圧倒的な緑地も話題になるだろう。
「大阪万博の用地としては100haを用意している。2025年5~10月に開催され、動員予定は3000万人。テーマは人類の健康・長寿への挑戦であり、ライバルはパリであるが、必ず勝ってみせる」(吉村市長)
さて一方で、大阪エリアにはライフサイエンスや新エネ分野の企業集積が進んでおり、これもまた売り物となりつつある。医薬品出荷額は全国約6兆2000億円のうち、関西エリアが30%を占めダントツとなっている。天明元(1781)年創業の武田薬品工業をはじめ、田辺三菱製薬、大日本住友製薬、塩野義製薬などのトップクラスの薬品リーディング企業が集積しているのだ。リチウムイオン電池生産額も関西がNo.1であり、87%のシェアを握っている。こうした新エネルギー分野においても100年企業のパナソニック、住友電工などが活躍しているのだ。
企業集積を進める一方で、国際的なIRエリアを作り上げ、万博誘致に総力を挙げるというのが大阪の近未来マップとなっている。大規模な物流ゾーンも併設されるため、このIR投資には何と6759億円が充てられ、それとは別にインフラ投資にも1000億円を投入する。巨大な経済効果を呼び込むと自負しているが、何のことはない。1964年の東京オリンピックから1970年の大阪万博というニッポンの大躍進を支えたイベントの繰り返しをやろうというのだ。
最近の企業集積の動向を見ていると、東京圏地震などへのBCP対策で大阪にバックアップ拠点を作るという動きが顕在化している。大阪は東京圏から約400km離れているが、交通の利便性は抜群に良い。アメリカ、イギリス、中国など16の在外公館もあり、オフィスビルの数は全国2位、ホテル客室数(約6万室)も全国3位とインフラは整っている。IoT時代を目前にして、データセンターについても大阪北部への立地が増えているのだ。
東京一極集中の時代が長く続いたが、大阪の復権は日本経済活性化という点では非常に大切なことであろう。それにしても、大阪人は何とギャンブル好きであることか!! これについては、後日またこのコラムで取り上げたいと思っている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。