政治、経済を問わず、不確実性の時代が到来しようとしている。こうした環境下、アルプス電気(株)は「持続的な成長が可能な会社」を目指す。そのための施策として、注力する技術領域をヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)、センサー、コネクティビティーの3つに設定。これらを深化・融合させ、車載分野、モバイル分野をターゲット市場とする。具体的には2018年度までの第8次中期経営計画(8次中計)のなかで、車載関連売上高を2000億円から3000億円へ、モバイル系を1000億円から2000億円の計5000億円にまで引き上げる。また、新市場として、EHII市場に注力してスマートフォン(スマホ)の市場縮小に備えていく方針だ。17年度に向けた事業戦略を、代表取締役社長の栗山年弘氏に伺った。
―― 新年を迎え、17年度に向けた心構えは。
栗山 時代は予期しないこと、想定外のことが平然と起きる、不確実性に向かっている。そんな時代にあっても、持続的な成長が可能な会社を目指していく。そのためには能動的に攻めるだけでなく、緊張と危機感を持って経営に臨む必要がある。
16年を漢字一文字で表すと「備」。13年度からの3年間、右肩上がりの業績が一転して、為替変動の逆風を受けた。16年度は減収減益の見通しで踊り場になるが、17年度以降の成長に向けた備えの年だといえる。また市場変化への備えでもある。業績牽引の立役者はこれまでスマホだったが、成長率が鈍化し、やがては減少に転じることを見据えて備えを進めた。そして、当社の8次中計目標である電子部品のみでの売上高5000億円達成に備えるべく、具体的な活動が芽吹いた年でもあった。
―― 持続的な成長を可能とする取り組みは。
栗山 まず車載市場だが、ADAS(先進運転支援システム)の進化、その延長線上にある自動運転など、自動車の電装化はこれまで以上に加速し、2桁成長を達成するであろう。当社の車載売上高は現状2000億円規模。これを3000億円にまで引き上げる。幸い、エリア別売上高も日米欧それぞれバランスよく分散しており、目標達成は不可能ではない。
―― 車載市場における戦略製品は。
栗山 当社が強みを発揮するのはコクピット内の各種操作、入力のためのスイッチなどインプットデバイスで、技術領域としてはHMIだ。これを中心に、センサー、コネクティビティー領域にもこれまで以上に注力する。さらに3つの技術領域を融合させ、車載市場を攻略していく方針だ。顧客層も拡大している。車の運転手と直結するインプットデバイスはティア1としてモジュール形態で提供している。各種センサーやコネクティビティー部品は要素部品としてティア2/3に供給している。
―― スマホについては。
栗山 スマホは顧客側に業績面での勝ち負けが生じており、電子部品のサプライヤーである我々にもその影響はあり、不確実性の色彩を濃くしつつある。対策としては、マルチカスタマー化でリスクを低減する方針だ。また、スマホは今後さらに高機能化が進み、カメラ機能の充実も商品差別化の重要な要素となってくる。このため、カメラ用アクチュエーターなど、付加価値を高める部品を中心に、今しばらくは業績に貢献するだろう。強みを持つ電子デバイスをより強化し、競合他社の追随を許さないことも重要な戦略だ。
―― スマホでの売り上げ計画は。
栗山 かつてスマホ1000億円の売り上げ計画は、想定以上の早さで達成した。今後はスマホ単体だけでなく、ウエアラブルやVR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)も含めたモバイルの総称で2000億円達成を目指していく。
―― スマホが減少に向かうことへの備えは。
栗山 新市場としてEHII分野を攻略していく。Eはエネルギー、Hはヘルスケア、2つのIはインダストリーとIoTだ。全領域とも顧客の数と製品の引き合いは確実に増加傾向にあるが、1つ1つのビジネスサイズはまだ小さい。売り上げ貢献までにはもう少し時間がかかりそうだ。
―― 韓国での取り組みもEHII攻略の一環か。
栗山 そうだ。電力IoTの構築について、韓国電力と当社子会社の韓国アルプスが協同事業を推進している。電力IoTで必要なセンサーなど、要素デバイスは日本本社で開発している。韓国アルプスは電力ネットワークシステム構築のニーズを満足させるために、開発部門がカスタマイズ化に取り組んでいる。この協同事業は実証実験に近く、ビジネスとして成り立つまでにはやはり時間が必要だ。
―― 「ハプティック」というフィードバック技術にも強みを持つが、この進化の方向性は。
栗山 ハプティックは車載やモバイルなどジャンルを問わず、マーケットを拡大していく。この背景にはスマホの普及が大きく寄与している。スイッチ・ボタンを押すのではなく、タッチ化の感触が主流になってきているからだ。車載では運転手のブラインド・タッチを補助し、誤操作防止をサポートする。モバイル系ではVRやARの世界で、ハプティックの効果が有効利用されよう。このハプティックは、電子シフターやコマンダーの中に組み込まれ、機能モジュールとして進化していく。このため、市場攻略のカギを握るのは、どのような機能モジュールを提供できるのか、その提案力が重要になる。
―― 新たな電子部品の領域に参入する計画は。
栗山 ない。当社の注力市場は車載、モバイル、EHIIで、様々なエレクトロニクス化の流れのなか市場は広がっていくが、技術領域はHMI、センサー、コネクティビティーとしている。これらが互いに融合し、連続性を持ちながら、「しみ出し」の延長線上に新製品が誕生するのは歓迎する。しかし、技術ベースのない、全くの「飛び地」に手を染める考えはない。
―― では、半導体の取り組みは貴社のビジネスにどう寄与しているのか。
栗山 当社製品へ組み込むための取り組みも10年以上になる。アナログ/ロジック変換ASICを主力にファブレスとして展開している。今後EHII市場攻略に向けて、センサー情報の信号処理で重要性を増していく。クラウドに引き上げるまでのゲートウェイの領域で、センシング&通信機能の強化は必須だ。ASICに組み込むファームウエアの開発体制は強化していく。
―― 宮城県大崎市に新工場用の土地を購入した。工場建設計画は。
栗山 まだ詳細は語れないが、数年以内に稼働に持ち込む。新工場は自動化、機械化、合理化を推進し、人海戦術に依存することなく、アウトプットを増やすラインを構築する。そして、構築したラインをマザーラインと位置づけ、国内外の工場に展開していく。
―― 設備投資計画は。
栗山 過去の設備投資は年間300億円規模。16年度以降は400億円程度を投資していく。
―― 最後に、世界の電子部品市場で日本陣営のシェアは約38%。今後もこの優位性は維持できるか。
栗山 白物家電用途など、手作業で生産できる汎用品はアジア陣が制するであろう。しかし、超小型で超精密なハイエンド品は日本製に優越がある。素材開発から生産設備に至るまで、内製化で対応できるのが日本の強みだ。
(聞き手・編集長 津村明宏/松下晋司記者)
(本紙2017年1月26日号1面 掲載)