電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第205回

(株)デンソー 常務役員 デバイス事業担当 鶴田真徳氏


半導体は部品のコア
サービス、ソフトで高付加価値化
他社と協力して海外大手に対抗

2017/1/20

(株)デンソー 常務役員 デバイス事業担当 鶴田真徳氏
 世界最大手の自動車部品メーカーである(株)デンソー(愛知県刈谷市昭和町1-1、Tel.0566-25-5511)は、自動車の電子化を担う半導体の内製にいち早く取り組んだことでも知られている。1968年設立のIC研究室にルーツを持ち、国内の大手半導体メーカーに匹敵する事業規模を持つと言われる。同社における半導体事業を所管するデバイス事業担当常務役員の鶴田真徳氏に話を聞いた。

―― ご経歴から。
 鶴田 岐阜大学工学部の出身で、84年に当社に入社。軽自動車用の電子制御燃料噴射装置の開発からキャリアをスタートした。以降、パワートレイン向け電子制御装置の技術者としてハード設計に9年、ソフト設計に6年間従事した。2012~14年末までは電子事業部長を務め、15年1月にデバイス事業担当に就任した。当社はQCD(品質・費用・納期)全般に高いレベルを目指しており、内製半導体部隊である我々もその要求に応えていきたい。私はもともとデバイス事業部製品の社内ユーザーであったこともあり、ユーザーとしての視点を持って仕事をするように事業部内に働きかけている。

―― 貴社における半導体の位置づけは。
 鶴田 当社は2020年長期方針として「地球環境の維持」「安心・安全」に取り組むことを宣言している。そのいずれにおいても半導体はコア技術だ。半導体で自動車部品の競争力、付加価値を高めるとともに、次世代の明るい未来の実現に貢献したい。

―― 半導体事業の概要を。
 鶴田 当社の半導体製品は約50%が半導体センサーで、残りのうちASICとパワーモジュールがほぼ半々だ。ASICとパワーモジュールはほぼ社内向けだが、センサーはOEMへの直接供給が多い。車載半導体市場は全体の傾向として競争が激化しており、世代交代ごとに価格への要求が厳しくなっている。このため、事業の先行きには緊張感を持って対応している。

―― デバイス別の戦略を。まずASICから。
 鶴田 当社のASICはECUの小型化と高機能化を両立できるノウハウでは世界トップクラスであると自負している。設計、生産の両面で外部との協業も実施しているが、コアとなるノウハウは内部に蓄積し、その開発にも手を抜くつもりはない。回路微細化では、16年に(株)デンソー岩手(旧富士通セミコンダクター岩手工場)で0.18μmプロセスを用いたECU用ASICを量産化した。0.13μmまでは社内製造の守備範囲だが、それ以降は外部と提携するつもりだ。

―― パワーモジュール戦略は。
 鶴田 薄型パワーモジュール「パワーカード」に搭載するIGBTはこれまで外部購入していたが、これを内製化する。また、新日本無線(株)を通じてオーディオ用SiCパワーデバイスの供給を開始した。車載用SiCデバイスは量産に向けて準備を進めており、SiCダイオードおよびトランジスタを供給していく。

―― センサーは競合との戦いが焦点になる。
 鶴田 当社の圧力センサーは精度と信頼性に優れ、お客様から高い評価をいただいている。しかし、価格競争激化で厳しさは増してくるだろう。競争力を向上させるにはハードだけでなく、サービスやソフトも含めた付加価値が必要だ。
 例えば、当社はフロントガラスに搭載されて雨や光を検知するセンサー(MELS=Meteorological Sensor)に、専用ICとソフトによる自動補正機能を搭載した。これまでは車種によって異なるガラスの角度に対し、適合やカスタム化が必要だったが、当社のセンサーは1種であらゆる角度に対応でき、適合工数も発生しないため、車両メーカーの開発負担を大幅に軽減可能だ。

―― クアルコムのNXP買収など、業界再編により外資系の巨大車載半導体メーカーが生まれているが、どう対峙していくか。
 鶴田 ユーザー、競合の2つの視点がある。まずユーザーとしては、当社がしっかりと車載として必要な要件を作り上げ、各半導体メーカーをリードできる立場でなければならない。競合としては、自社の強みを活かすことのできる領域を見極めながら戦いを仕掛けていく。

―― 次世代自動車の対応は。燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)のどちらに重点を置くか。
 鶴田 FCV、EVのどちらが次の主役になるかはまだ分からない。しかし当社は、そのどちらに向けても対応したデバイスを開発し、供給していく。

―― IoTへの対応は。
 鶴田 コネクテッドカーなど、車載IoTでは非車載技術が数多く導入されるが、内製半導体デバイスがこの領域を主戦場にすることは考えていない。しかし、関連するセンサーなど、車載に特化した要求に応える製品・技術の開発は積極的に行っていく。一方で、生産現場へのIoT導入は前向きに検討する。特に前工程の生産性向上を目的に手をつけたいと考えている。

―― 日本の半導体産業の今後をどう見ているか。
 鶴田 強大化した海外半導体メーカーと正面から戦って存在感を示すのは難しいと思う。だからこそ、負けないための取り組みをしたい。そのためには半導体メーカー同士の協業も必要だ。私は他の半導体メーカーに「我々はあなた方の競合でもあるが、協業相手にもなりうる。我々は一般の半導体メーカーにはない自動車に関する深い知識を持っているのだから、互いの強みを活かしたコラボレーションにより、競争力の強化を実現しましょう」と呼びかけて協業に向けた活動を始めている。
 当社デバイス事業部は設立以来、品質第一主義を掲げて、その実現のために半導体を内製してきたが、品質確保を前提のうえで外部の力を借りることに抵抗はない。今後は他社技術・製造も積極的に取り入れていく方針だ。もちろん、自社で手がけることで品質向上が可能な分野を内製化する方針に変わりはない。今後とも高品質で車載に最適な製品供給をしていく。

(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/中村剛記者)
(本紙2017年1月19日号1面 掲載)

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