「半導体製造装置の分野は日本、米国、欧州、さらには韓国なども巻き込んで、激烈な戦いが続いている。IoT革命を背景に、2017年ごろからフラッシュメモリーをはじめとする一大半導体ブームがやってくるだろう。しかして、私たちの考え方は、大手がやらないニッチの部分でグローバルトップを取ることだ。そこには震えるほどの喜びがある」
アプリシアテクノロジーの常務取締役営業本部長
柴田洋孝氏
こう語るのは、タツモグループのアプリシアテクノロジー(東京都新宿区高田馬場1-29-8)で常務取締役営業本部長の任にある柴田洋孝氏だ。柴田氏はかつて東芝半導体で大活躍し、その後いくつかの会社で重役を務め、現在はアプリシアの国内外の営業の陣頭指揮をとっている男である。
アプリシアの親会社であるタツモ(岡山県井原市)004年3月に東証ジャスダックに上場し、注目を集めた。半導体製造装置、液晶製造装置、クリーンロボット搬送システム、精密金型、樹脂成型などを手がける企業であり、16年12月期連結売上高は約120億円を見込んでいる。何しろ今年に入って株価はストップ高が2回もあったという成長企業であり、この間に株価は1000円から4倍の4000円にまで引き上げている。
「タツモの得意技は色々あるが、グローバルニッチトップを狙った製品戦略とその徹底したモノづくりだろう。例えば、ウエハーとガラスを貼り合わせるテンポラリーボンディング・デボンディングプロセス用ウエハーサポートシステムやそのガラスリサイクラー、厚膜塗布に特化したコーター&デベロッパーなどは大手製造装置メーカーが比較的手がけないところを狙って成功しており、国内外の大手半導体顧客に対し延べ1400台以上も出荷した実績がある」(柴田常務)。
その他にも第10世代まで合計700台以上を国内外に出荷している液晶用スリットコーター、エンボスキャリアテープなどの分野で実にユニークな製品群を出しているのだ。
一方、アプリシアの製品ラインアップは、リフトオフプロセス洗浄装置、燐酸再生システム、CMPスラリー・薬液供給装置などがあり、いずれも好評を得ている。リフトオフプロセス装置(VAPシリーズ)という新開発製品を今年に入ってリリースし、すでに海外顧客に納入した。これはバッチと枚葉の両方の長所を併せ持ち、高温浸漬と高圧・高温スプレーの組み合わせにより、フォトレジスト、ドライフィルム、フラックスなどの厚膜を効率的に除去・リフトオフプロセスが可能で、評価デモ装置にも注文がくるほど今後大いに期待できるのだ。
「また、燐酸再生システムは独自技術の集積で新規燐酸量を激減させるシステムで、これからの環境に配慮しなければならない量産工場には不可欠となる。いずれにしても、グローバルニッチな商品を開発することについては、得意中の得意と言ってよいだろう」(柴田常務)
タツモの国内拠点は井原市の本社工場群、岡山市のタツモ・アプリシア岡山技術センター、グループ会社のプレテック(精密金型・樹脂成型)、クォークテクノロジー(エキシマUVランプ)があり、アプリシアテクノロジー本社は東京にあって、タツモの東京営業所が同居している。海外は米国、台湾、上海に営業・サービス拠点があり、上海には樹脂成型工場も別法人であり、ベトナムには自動化装置製造工場がある。ベトナム工場の勢いはすさまじく、第2工場まで立ち上げたが、すでにキャパ不足のため再拡大を視野に入れている。日本企業のベトナム進出がいかに進んでいるかの証左であろう。
東芝半導体を皮切りに、デバイスや装置などまっしぐらに半導体業界を駆け抜けてきた柴田常務は、つくづくと半導体業界の過去・現在・未来を見通してこう述べるのだ。
「確かに日本の半導体メーカーは全体としてかつてのようなパワーは持っていない。それでも東芝は命綱ともいうべき、東芝四日市工場に1.5兆円を投じるフラッシュメモリー新工場を来年2月に着工する。CMOSイメージセンサーの世界王者であるソニーもまた積極的な設備投資を続行している。パワー半導体で頑張っている日本メーカーも数多い。こうした国内メーカーの動きもキャッチしながら、アプリシアは国内外問わず半導体業界に貢献できる製品を次々と開発・製造・出荷していきたいのだ」
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。