「地域密着型、ガス密着型、そして顧客密着型の企業として発展してきた我が社は、今後IoT時代に対応した戦略での拡大を狙う。幸いにしてガスをベースにした産業サービスに食い込んでいる当社は、IoTの生産現場にも適応できる様々なサービスが行えるのだ」
こう語るのは高松帝酸(香川県高松市朝日町5-14-1、Tel.087-822-5222)の社長として陣頭指揮を執る太田賀久氏である。同社は1950(昭和25)年5月に創業され、現在は高圧ガスのスペシャリストとして四国一円に知られている。
同社は酸素、窒素、アルゴン、炭酸、水素、さらにはヘリウムなどの特殊ガスに至るまで、ほとんどのガスを世に提供している企業なのだ。あらゆるガスのエキスパートを標榜しており、ガスの生産ならびにガスマネジメントにかかわる技術や経験をベースに、広範なワンストップサービスを提供している。
「鉄鋼、化学、食品、製薬、エレクトロニクスなど、四国のあらゆる産業のお客様に産業用ガスを提供している。ここにきて成長しているのは医療向けビジネスであり、今や売り上げの3分の1を占めている。当社は日本エア・リキードの関連会社であるが、大陽日酸、エア・ウォーター防災などの各社とも取引を持っている。この強いルートを生かして医療用ガス、在宅医療、医療ガス設備・保守点検、手術室・医療機器までの広い分野をカバーしている」(太田社長)
最近の政府の方針は、医療費の増大に耐えかねて、病院ではなく在宅医療を充実させることを強く打ち出している。そうなれば在宅酸素療法、在宅人工呼吸療法、在宅輸液療法、在宅持続陽圧呼吸療法などが重要となってくるわけであり、高松帝酸は四国全域をカバーする充実したネットワークを生かし、医療関係者、在宅の患者などにきめ細かいサービスができるのだ。
さて、その高松帝酸がここにきてにわかに注力し始めたのが、IoTの生産管理分野である。IoT革命は工場の現場に続々と入り込んでくるわけであり、当然のことながら溶接設備やロボットなどの導入が増えてくるのだ。IoTはそれぞれの生産現場に合わせ込んだカスタマイズが強く要求されるため、ユーザーニーズを捉えたサービスが必要になってくる。高松帝酸の場合、ガス/溶接についてもそれぞれの品質チェックを行い、様々なメンテナンス、デリバリー、そしてサービスが提供できるのだ。
「ガスを扱うということは、あらゆる現場に常時コンタクトしていることを意味する。工場であってもオフィスビルであっても、また病院、自宅に至るまで当社のスタッフがいつもいつも目配りをし、かつ地域の人たちとの交流を続けている。言ってみれば、このネットワークが当社の最大の武器である。四国全土に広がる製造/物流ネットワークも確立しており、様々なメーカーの商品を扱う商社部門では、テクノポリスなどの展示会や技術セミナーを定期的に開いている。メーカーの販売代理店ではなくユーザーの購買代理店を目指し、世界中の企業が有する新技術や新商品を四国の皆様にいち早くお届けできるのだ」(太田社長)
本来のお家芸であるガス・エンジニアリングを横展開し、IoT生産管理にも拡大しようという高松帝酸の生き方は、まことに正鵠を得ている。IT産業が成熟しても、IoTという技術革新が新たなマーケットを切り開いていく。この流れに乗れなければ、どのような企業も将来の発展は望めない。
また一方で、同社は将来の燃料電池車の普及に備えて、来年4月には高松に水素エネルギーステーションを新設することになっており、次世代自動車/IoT対応コネクテッドカーへの手当ても着々と準備を進めている。高松帝酸の売り上げは現状で100億円強となっているが、2020年までのビジョンとして200億円達成を考えている。IoTの急速な拡大は同社の目標額クリアに大きく貢献することは間違いない。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。