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第195回

トヨタ自動車(株) パートナーロボット部 生活支援プロジェクト 第1HSRグループ長 池田幸一氏


生活支援ロボ 国際大会の標準機に
大学などとの連携で機能を拡張へ

2016/11/4

トヨタ自動車(株) パートナーロボット部 生活支援プロジェクト 第1HSRグループ長 池田幸一氏
 トヨタ自動車(株)(愛知県豊田市トヨタ町1、Tel.0565-28-2121)は、2000年から本格的にパートナーロボットと呼ばれるロボット開発を進めている。その1つが12年に発表した「生活支援ロボット HSR(human support robot)」だ。介助犬をコンセプトに開発した折りたたみ式アームを備える小型ロボットで、直近は大学・研究機関との連携を深め、技術開発体制を強化している。今回、パートナーロボット部 生活支援プロジェクト 第1HSRグループ長の池田幸一氏に話を伺った。

 ――まずHSRについて伺います。
 池田 HSRは当社のパートナーロボットプロジェクトの1つとして、12年にコンセプトモデルを発表したロボットだ。手足の不自由な方に代わり、落としたものを拾ってくれたり、棚にあるものを取ることができ、主に障害者宅での実証や展示会でのヒアリングを進めた結果、一定の評価をいただいた。しかし、代替できる作業が限定的であることが課題であった。そこで15年に「HSR開発コミュニティ」を立ち上げた。

 ――そのコミュニティについて詳しく教えて下さい。
 池田 複数の大学・研究機関などと連携してHSRの技術開発を推進するコミュニティで、現在は10以上の機関と連携しており、16年からHSRの提供を開始している。研究開発用のプラットフォームロボットとしてHSRを活用し、開発した技術やノウハウなどの成果を加盟者で共有・相互利用することで、HSRの機能を加速度的に高めていくのが狙いだ。一案としては、HSRに施設内の巡回機能を付与したり、見守り機能を持たせるといったことが考えられる。
 研究開発用のHSRは外部機器との接続性を高めるため拡張ポートを充実させ、オープンソースのROS(Robot Operating System)を採用している。加えて、無線の停止ボタンで駆動系電源の遮断ができるようにするなど、開発がしやすいように利便性を高めている。

 ――HSR本体の開発については。
 池田 ソフトウエア、ハードウエアの両面でまだまだ改良を進めていく必要がある。ハード面ではHSRにはマイクアレイ、ディスプレー、ステレオカメラをはじめ数多くの電子デバイスが搭載されており、コストパフォーマンスなどを向上させるために電子デバイス関連企業との連携もより積極的に深めていきたいと考えている。

 ――ロボット分野では人工知能(AI)との融合もテーマとなっています。
 池田 HSRを発表した12年に比べ、ロボットを取り巻く環境が大きく変わってきたと感じており、ロボット技術との親和性が高いAI関連技術の進化もその1つだ。当社でも16年1月に人工知能技術の研究・開発を行う「Toyota Research Institute(TRI)を設立し、自動運転への展開に加え、ロボティクス領域を応用分野の1つに挙げている。現段階ではTRIとHSRとの具体的な連携はまだはないが、当社が開発を進めるパートナーロボットのなかでAIと最も親和性が高いのがHSRだと見ている。

 ――今後の展開について。
 池田 先に述べた「HSR開発コミュニティ」での取り組みのほか、17年7月に名古屋で開催されるロボットの国際的な競技大会「ロボカップ世界大会」において、HSRが競技用の標準機として使用されることが決まった。
 当社としては、このようにHSRに関する連携や枠組みを広げていき、ロボットに取り組んでもらえる人を少しでも増やしていきたい。それがロボット技術の進化につながり、ひいては人々の役に立つロボットの創出にもつながる。当社がロボットを開発するのは、この「人々の役に立つ」という部分が常に根底にあり、HSRを多くの方に利用にしていただけるように今後も尽力していきたいと思う。

(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2016年10月27日号1面 掲載)

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