電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第203回

「一番苦しい時期に思ったことは、一番強い製品で勝負しようということだ」


~画期的光ファイバーで株式上場、売上倍増を狙う湖北工業の石井太社長の言葉~

2016/10/7

 「1998年に本社工場を増築し波に乗るところであったが、その後、韓国や台湾の企業に押されてコストダウンを迫られ、苦境に陥った。次の展開が見えない状況であり、合理化を迫られた。その一番苦しい時期に思ったことは、やはり一番強い製品力で勝負しようということであった。そしてまた、創造性や企画力に優れる一番強い社員を大切にしようということであった」。

注目の中小企業「湖北工業」は株式上場、売上倍増を狙う
注目の中小企業「湖北工業」は
株式上場、売上倍増を狙う
 こう語るのは滋賀県長浜に本社を構える湖北工業の代表取締役社長である石井太氏である。湖北工業は59年8月に高月町(当時)の旧庁舎で操業した。61年5月には現在の本社のあるところに工場を新設・移転し、74年8月からタブ端子専用の製造工場を増設することによって地歩を築いた。創業者は石井勘蔵という人であり、その後を継いだ2代目の石井庄治郎氏がこの会社の発展を築いたのだ。その後、全自動タブ端子洗浄装置を完成させ、シンガポール、マレーシアに子会社を作り、海外売上高が飛躍的に増加していく。

 「我が社が手がけるアルミ電解コンデンサー用リード線端子は世界シェアで40%を握っており、この分野では、いうところのグローバルニッチトップのポジションにある。年間700億個の生産量をこなしている。ここのところ伸びは鈍化しているが、IoT時代に対応し、車載向けコンデンサー分野で勝っていく考えだ。車載向けなら7~8%は伸びるとみている」(石井社長)

 石井社長は2000年に第3代社長に就任したが、これは42歳の時であった。その時に得意とするコンデンサー用のリード線端子だけでは次の発展は築けないとして、光事業本部を発足させた。同時に中国(東莞)および蘇州に子会社を作り、中国マーケットで先行するという戦略を進めていく。

 光事業部の主力製品は、石英やジルコニア素材をメーンに、光ファイバーの素線と同じ直径の極めて小さな穴(125μm)をミクロン精度で形成したマルチホールタイプの多芯キャピラリだ。マルチホールの特徴を最大限に活かした穴を縦横8×8で配置したマトリックスタイプなど、他社にはないユニークな製品開発に取り組んでいる。また、多芯キャピラリに光ファイバーを組み込んだファイバーアレイの生産ラインも万全である。

 「ここにきて伸びているのは、何といっても光関連事業なのだ。将来的にはコンデンサー30%、光通信30%、そして全く新しい分野での売り上げ40%を考えている。それが達成できれば、現状の売り上げ93億円を20年には倍増の200億円に持っていけると思う」(石井社長)

 注目の新たな製品というのは、全く新しい原理に基づく光ファイバーのことを言っている。これは東北大学中沢教授の開発した自由度の高い形状のファイバーであり、何と60個の穴が開いているという優れものなのだ。マルチコアファイバーとして19芯が可能であり、言ってみればデータ通信量は1芯のものと比べて19倍に引き上がるという画期的な製品と言えるのだ。

 「IoT時代にあっては、光通信がやはり主役の一角を占めるだろう。とにかくオンリーワン製品で勝負するしかない。弊社の新型光ファイバーはとてつもない作り方をしており、ここに企業としての最大の価値がある。ファイバーを伸ばすと同時に光増幅器などの光デバイス、光モジュールを作り込み、顧客のカスタマイズに対応していく。今後はM&Aも積極的にやる。もちろんどこかの時点で、株式上場も視野には入っているのだ」(石井社長)

 ちなみに石井社長は今後の人材不足に対応し、女性労働力をさらに活用していく考えだ。現在の社員は海外を含め1500人を擁しているが、女性比率は40%もある。特に中国蘇州の女子は優秀だという。子どもを産んで育てていける環境を整備することで、主婦にもチャンスはある、管理職にもなれる、というのが石井社長の考え方なのだ。また中高年労働力の活用も叫ばれる現在であるが、65歳を超えてもやれるならいくらでもやってくれ、というのが社の方向性だというのだ。実際のところ、開発の責任者には72歳の人がいる。

 「ありがたいことに本当に苦しい時期を抜け出して、社員たちの団結力はいやが上にも高まった。ここ数年間の売り上げを言えば、14年が72億円、15年が85億円、16年が93億円と引き上がっており、これはやる気のある社員たちの築いた財産だ。06年には経済産業省より、“元気なモノづくり中小企業300社”に選定された。13年には中小企業庁より石英マイクロチューブ・キャピラリについて中小企業庁長官賞を受賞した。この原動力はすべて頑張ってきた社員たちが築いたものだと思っている」(石井社長)。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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