プリント基板用の穴あけレーザー加工機市場でトップシェアを誇る三菱電機(株)(東京都千代田区丸の内2-7-3、Tel.03-3218-2111)。初号機を出してから2016年で丸20周年を迎えた。初号機以来、世界に累計4000台を出荷した。一方、これまで需要を牽引してきたスマートフォン(スマホ)市場の成長鈍化が取り沙汰され、先行きに不透明感も出ている。しかし、依然として新興国などで普及が期待される主要な電子機器でもある。
その最新スマホのメーン基板やパッケージ基板では、細線化やビアの小径化ニーズが強く、新たな高密度基板の需要が高まることが予想される。同社は、従来手薄であったフレキシブル配線板(FPC)向け穴あけ用レーザー装置市場にも戦略商品を投入し、本格攻勢をかける。メカトロ事業推進部の本多弘幸部長に16年度の事業戦略など今後の展開を聞いた。
―― スマホ需要が低迷した15年度の基板用穴あけレーザー装置事業を振り返って下さい。
本多 確かに昨年後半から一部のスマホ需要は例年以上に弱含んだが、中国などで旺盛な基板向けの投資が継続されており、HDI市場の拡大にも支えられ、当社の炭酸ガスの穴あけレーザー機の出荷は過去最高を記録し、2年連続で過去最高を更新した。
―― 足元の市況ならびに16年度の事業見通しについて教えて下さい。
本多 足元は昨年ほど勢いがないが、計画値どおりに推移しており、決して悪くない。今後の市況次第であるが、少なくとも前年度並みの出荷を目指す。
―― 製品ラインアップは。
本多 大きく3分類される。マザーボード基板、パッケージ基板、電子部品、FPCなどの様々な基板に対応するオールラウンドモデルの「GTW4シリーズ」。さらに、より微細な回路が要求されるパッケージ基板向けのハイパフォーマンスモデル「GTF3シリーズ」と、UVレーザーを光源にするFPC向けの高速UVモデルである。
オールラウンドモデルの最新版は、炭酸ガスレーザーでありながら、樹脂付き銅箔でも35μm径の微細なビアが安定して開けられる技術を確立した。当社独自の光学設計を駆使して実現した。
―― シェアNo.1の秘訣とは。
本多 それは、キーテクノロジーとなる高出力のレーザー発振器をはじめ、高速・高精度のガルバノスキャナー、優れた光学特性のfΘレンズのコア部品を開発段階から内製化していることだ。これらの開発拠点は先端技術総合研究所や生産技術センターが中心になって行っている。
―― グローバルでの需要が拡大していますが、メンテナンスなどのサービス拡充策は。
本多 当社は基板用穴あけレーザー装置で20年以上の実績があり、この間、生産性も20倍以上向上させている。累計で4000台が出荷されている。現在も稼働しているものが大半と思われるが、日本をはじめ中国、韓国、台湾の4カ国に販売拠点を持っている。さらに、サービス拠点は前述の4拠点に加えて、タイ、ベトナム、マレーシアの計7カ国で展開、迅速に顧客ニーズに対応できる体制を構築済みだ。
―― 生産体制に問題はありませんか。
本多 装置のシステム設計や製造・品質管理は名古屋製作所で行っている。現状は、月50台体制を構築済みで、当面の需要増には対応していける。
―― FPC用の戦略商品も投入しました。
本多 15年に、FPC基板の微細なビア形成に対応したUV光源のレーザー装置を2機種投入した。今後需要が本格化するとみられる。355nmの波長を持ったレーザーで、ポリイミド樹脂にきれいな穴あけを形成できる。
シンクローム技術という独自の工法を適用して、加工テーブルを動かしながらもレーザーを照射できるようになり、従来比で50%ほど非加工時間を短縮させた。以前は、加工テーブルを駆動させていったん停止させないと、レーザー加工ができなかった。
―― 今後の開発や事業展開について。
本多 装置は引き続き、生産性の改善を続ける。位置合わせ精度やガルバノスキャナーの速度・精度、レーザー発振器の出力の向上、fΘレンズの広角化など基本性能をそれぞれ引き上げる。また、今後はIoTを活用し、稼働中のレーザー加工機の状態を常に監視するサービスなどの展開も模索する。いわゆるデータの見える化を進めたい。リアルタイムで情報収集を行い、生産の進捗、トレーサビリティー、アラーム情報などを集積・把握することで、将来は基板製造時の生産性の改善や最適なメンテナンス時期の提案につなげたい。
(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2016年9月8日号5面 掲載)