電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第198回

スーパー家電というジャンルが一気にやってくる


~キーワードはやはり「IoT」でインテリジェント化の波~

2016/9/2

 「家電という分野はもはや枯れた世界だと思っている人がいる。確かに白物家電や液晶TVなどは中国勢をはじめとして、もう誰もが作れることになってしまったから付加価値はない、と見る向きは多い。しかして、それは違うのだ。インテリジェント化すれば、それはとんでもないことになる」

 大手証券会社のエレクトロニクス担当のアナリストは、虚空を見つめるような眼でそうつぶやくのだ。つまりは、家電という当たり前の製品にもIoTの波がやって来ており、生活文化を一気に変えていく可能性があると指摘する。

 先ごろ、日本を代表する家電メーカーであるパナソニックの主力工場を訪れた際に、筆者はこのアナリストの声にうなずかざるを得なかった。一番驚いた製品開発は洗濯物の自動折り畳み機であった。洗濯機は、乾燥機付きなどはとっくに出ている機能であり、ドラム式をはじめとした技術革新はどんどん進んでいる。

 しかして、洗濯されたものを折り畳むという作業がどのくらいかったるいものであるかは、すべての女性が知っている。いや、最近では家事をシェアする夫たちも多く、女性たちの稼ぎで暮らす“ヒモ”のような情けない男性もいるのであるから、このかったるさが身にしみている人たちは男女を問わないはずだ。ひとり暮らしで体の悪い人たちはもっと切実だろう。

 ところが、さすがに天下のパナソニックはこの完全自動化をやってのけたのだ。洗濯物の自動折り畳み機はすでにサンプル的には世に出ており、これを本格量産に持ち込んでいく考えだ。この製品の登場に拍手を送る人たちは世界中でいっぱいいるに違いない。IoT時代が到来するのに、こんな便利なものが出てこなかったことが不思議なくらいだ。

パナソニックのプレミアム家電は売れているのだ!!
パナソニックのプレミアム家電は
売れているのだ!!
 このようなワンランク上の製品をパナソニックはプレミアム家電と呼んでおり、言うところのスーパー家電の波は次々とやってくるに違いない。ちなみに、パナソニックは高付加価値化を武器として白物家電のバージョンアップを図り、10四半期ぶりに黒字化を果たし、この分野のシェアも30%以上を獲得し、国内トップシェアとなったのだ。

 一方、日立製作所は白物家電の製品開発に人工知能(AI)を導入することを打ち出した。冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの白物家電は、どのような国にあっても必須ともいうべき製品であるが、機能アップはしてきたものの、使い勝手の改善は遅れていた。日立はモニタリングする人を選んで開発中の製品を使う様子を撮影し、手元の動きやとまどうしぐさをディープラーニングで分析する。このことで、使い勝手の改善や新たなニーズの発掘につなげていくのだ。

 日立独自のAIで集積した情報を解析し、最適な冷蔵庫の棚の高さやボタンの位置などを導き出して設計に生かすという。独自の仮説で分析し、通常時に人間が気づかない点をAIが指摘してしまうのだ。もちろん、センサーモジュールを冷蔵庫に搭載し、不足している食料品やレトルト食品などをすぐに探し当てるといったことは、そのうちお茶の子さいさいになるだろう。大体が、冷蔵庫の中の整理が苦手な女性も多く、彼女たちが賞味期限切れの食品や食材を捨てているケースがかなり多い、ことを知らない男性族もいっぱいいるのだ。

 ソニーもまたAIやセンサーを活用した家電の開発を急いでいる。40km離れた自宅にあるエアコンを作動させたり、カギを閉め忘れていたら遠隔操作でしっかりと閉めてしまうことも可能になるだろう。こうしたスーパー家電のキーワードになるのはやはり「IoT」であり、まさに生活インフラの革新につながっていくのだ。家事からの解放は、労働時間や考える時間、さらには遊びで楽しむ時間を増やしていく。

 そして、さらに家庭用のヒト型作業ロボットが本格的に量産されたら、未来はもっとすごいことになるだろう。ちなみに、筆者は先ごろあるイベント会場で見目うるわしき女性に声をかけられ、1~2分話して悦にいっていた。しばらくしてから、少しの違和感を覚えよく見たところ、何とそのお美しいお嬢様はロボットだったのだ。背筋が凍る思いであり、あああもうIoTはもう1つのすごい世界を構築してしまうのかと少しく考え込んでしまった。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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