デバイス1個単位からの生産にも柔軟に対応する、世界初・日本発の生産モデル「ミニマルファブ」。2012年度から14年度までの国家プロジェクトとしての研究開発を経て、現在では産業技術総合研究所(つくば中央第2)内にある開発拠点をベースに、各社がさらなる改良・改善に取り組んでいる。産総研 ナノエレクトロニクス研究部門ミニマルシステムグループ長/ファブシステム研究会 代表の原史朗氏に開発の現状、今後の展望について伺った。
―― ミニマル開発における課題や進捗状況を。
原 主要な装置技術については引き続き順調に開発が進んでいる。ハーフインチのミニマルウエハーは、すでに1万枚を生産するとともに、洗浄技術の改善で歩留まりを95%にまで向上することができた。事業として自立できる一歩手前まで来ている。
一方、現在本格的な取り組みをスタートさせているのが「データフォーマットの統一」だ。これまでも、後工程関連におけるマスクレス露光やインクジェット、レーザー加工の各工程において、GDS(Graphic data System)データによるデータの統一を行っていたが、研究会内部でタスクフォースを立ち上げ、測長・測定系のデータも含めたところでCADデータと連動させる取り組みを進めている。
従来の測長系では、CD-SEMや膜厚測定、デバイスの電気的特性測定などは、それぞれ独自のデータフォーマットが用いられていた。そのため専門家が必要だ。しかし、設計データと統一することで、ミニマルのEDAツールである「LAVIS」(TOOL社)により一元的に管理ができ、各データをエディットすることが可能となる。これは、半導体業界において初の試みといえるものだ。
―― 「データフォーマットの統一」の先に目指すところは。
原 最終的にはコストダウンにつながるだろう。半導体デバイスをXY方向で見れば設計CADであり、これは「数学の話」だ。Z軸方向で見ると製造レシピになり、これは「物理の話」に変わってしまう。ここに分業による無駄がある。ほぼ完全自動運転を実現しているミニマルであれば、データをパソコンとやり取りするだけでデバイス製造が可能だ。
つまり、設計と製造レシピを統合し、標準化することができれば、デバイスを作りたい人が、設計から製造パラメーターまでをすべて1人で管理・調整し、マニュアル化が許される完全自動生産を実現できる。
―― 今後の取り組みについて。
原 今年から装置の販売に本腰を入れて取り組む。国内では14年に(株)ジェイテクトへ一部装置を販売しているが、今後は海外も含めて拡販を進める。すでにベトナムのSHTP(Sigon Hi-Tech Park)にあるSHTPラボとミニマルのマスクレス露光装置を手がける(株)ピーエムティーが、ミニマルファブを活用したデバイス開発についてMOUを締結している。
今後、SHTPラボから2人の研修生を産総研が受け入れ、研修が終わる17年をめどに、ミニマルライン(当初は10~20台程度)をSHTPラボに立ち上げる予定だ。これが海外最初のミニマルラインとなる。
―― そのほか、海外からの引き合いなどは。
原 実際、多くの引き合いをすでにいただいている。米国からは、ダイヤモンドウエハーを用いたデバイスの研究開発・ファブ向けにミニマル装置を使いたいという非常に具体的なお話までいただいているところだ。欧州系の企業などからも引き合いがある。ミニマルファブに理解のある人々が現れた国から集中的に導入するのが、我々の海外展開戦略だ。
(聞き手・編集長 津村明宏/清水聡記者)
(本紙2016年8月25日号7面 掲載)