電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第190回

10万人のグループ社員はみんな家族だと思っている


~日本電産の滋賀技術開発センターで聞いたきらめきの言葉~

2016/7/8

 「右も左も分からない若造に会ったばかりで、直ぐにひたすらグローバリゼーションを説く。全世界を股にかけて勝負に出るのであるから、いつでもいい人材を欲していると言う。気がついたら滋賀工場から技術開発センターへ変化を遂げる事業所で足掛け30年を過ごし、永守会長の語った言葉を今度は自分が語っている」

 物静かにして燃え上がる情熱を内に閉じ込めた様子で、その男は語り始めた。三重県四日市で生まれ、中部大学電気工学を出て、日本電産のトップである永守重信氏に運命の出会いをしたその男は、現在滋賀技術開発センター所長を務めている。その男の名は宮本栄治氏である。

 宮本氏は大学時代の教授が永守氏と親しかった関係で就職のための会社訪問に出かけたが、ほんの少しの面接だけあっていきなりトップの永守氏が登場し、前記のような熱い言葉をひたすら語られた。まだ入社するかどうかも分からないのに、永守氏は持てる情熱をすべて宮本氏に叩きつけたかのようであった。それは、今から31年前の1985年のことであり、今をときめく日本電産も未上場でたった500人の会社だった。

永守重信氏の教えを実践する宮本栄治氏(日本電産の滋賀技術開発センター所長)
永守重信氏の教えを実践する宮本栄治氏
(日本電産の滋賀技術開発センター所長)
 町工場に毛の生えたようなその会社のトップは、ひたすらにグローバリゼーションという概念を語った。1973年に創業した日本電産は、今や世界No.1の総合モーターメーカーに飛躍し、連結売り上げは約1兆2000億円となり、世界33カ国にグループ228社を持ち、人員は9万6602人に達している。

 「工場や寮を改築する場合にも、永守会長は社員の満足度を第一に考える。疲れたエンジニアをリフレッシュするために本館の最上階に食堂を設けることを指示された。地域貢献もすさまじい。滋賀技術開発センターのある愛荘町と提携し、有事の際には1階のホールを全部提供することを決めた。地元警察署とも話し合いを持ち、これまた緊急の折には2階の応接室を臨時対策本部として使ってもらうことも決めた」

 そればかりではない。地域の小学生達に対しエコ学習なるものを実施している。滋賀技術開発センターに来てもらい、簡単なモーターキットを一緒になって作り、それがどれだけ世界の省エネルギーに貢献しているかを説く。地域と共生しなければ会社の発展はない、という基本スタンスが貫かれているのだ。

 「一番大切なことは、ヒューマンリレーションであることを永守会長から教えられた。滋賀はグループの開発および量産試作の最大拠点であり、1000人近くが従事している。ありがたいことに自分は足掛け30年以上もこの滋賀にいるために、誰が何をしているか、どこに何があるのか、さらには社内の人脈も分かる。社員一人ひとりの状況を把握することからすべてが始まると思っている」(宮本所長)

 ちなみに、宮本氏は社内恋愛で結婚した。永守氏は社内恋愛に大賛成であり、社員たちに「欲しいものは取りに行け」と常に教えているそうだ。

 さて、日本電産は主力となるブラシレスDCモーターをベースに、精密小型から超大型までのあらゆるモーターおよび周辺製品、応用製品まで業容を拡大している。最近ではモーターを中核としたグローバル総合電装メーカーへ進化することを標榜しており、2020年度には売上高2兆円、営業利益率15%達成を目指すというのだ。代表取締役社長兼会長の永守重信氏は「100年後もなくてはならぬ企業になりたい」と言っており、社員は一丸となってここに邁進していく考えを固めている。

 「10万人を率いる企業グループのトップが各事業所で開催される食事会に必ず顔を出し、若い人たちと情熱的に付き合う、という光景は世界中を見渡してもないだろう。どこまで行っても社員は本当の家族と同じ、と思っているからこそそれができる。2015年4月には永守経営塾が開校したが、次世代の経営を担う国内の日本電産グループ社員を対象に、創業者の永守会長から直接に経営理念/経営哲学を学ぶことができるようになった。これが何よりのプレゼントだと私たちは思っている」(宮本所長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索