2015年度に売上高2404億円を達成した太陽誘電(株)は、ここ数年内にこれを3000億円規模に引き上げる計画である。この売上高3000億円達成に向けて、マーケットの最前線で陣頭指揮を執るのが、常務執行役員 営業本部長の梅澤一也氏だ。電子部品業界の主力アプリであるスマートフォン(スマホ)や車載用途を中心に、今後の営業戦略について伺った。
―― まずは直近の市況感から。
梅澤 マクロ経済は円高傾向にある。当社のビジネスは80%以上を海外向けが占めており、為替レートを15年度の実績1ドル120円から、今期は105円想定で事業予想を展開している。アプリ別では、スマホ市場は例年同様に北米メーカーをはじめとする新製品投入などを背景に、7~9月期には活性化するであろう。自動車・産業機器分野に関しては、当社参入の歴史はまだ浅く、製品別構成比では23%ほど。中期的にはこの比率を30%にまで拡大していく方針だ。
―― FBAR・SAWデバイスの販売戦略について。
梅澤 マルチバンド化が進んだことで当社の高性能なフィルターの需要が拡大しており、FBAR/SAWフィルター両方を組み合わせて攻勢をかけている。主に2GHz帯域のバンドまで対応するSAWとともに、狭帯域や3~5GHz対応のFBARのポジションが大きくなりつつある。顧客ごとのスマホの仕様とコストに配慮し、FBARとSAWをミックスしたデュプレクサー、さらには誘電体フィルターまで組み合わせたものを提案していく。
―― 量産体制は。
梅澤 SAWはバンド帯域により様々なタイプがあるため、品種によりウエハーなどを使い分ける。このため量産体制は多品種少量ラインとなる。プロセスレシピなどはMES(製造実行システム)で集中管理する。フィルターの受注は増大傾向にあり、15年度のFBARの生産能力倍増に引き続き、16年度はFBAR、SAW両方の生産能力を拡大し対応していく。
―― フィルター以外での注目は。
梅澤 部品内蔵配線板「EOMIN」の躍進も見逃せない。EOMINは超小型・低背モジュールとして、デュアルカメラを実現するための重要な部品。平坦性や剛性、放熱性、ノイズ耐性など優れた特性を有しており、メーンカメラをデュアルカメラ化した中国ローカルスマホに採用された。今後さらなる需要拡大が期待できる。
―― スマホに次ぐ有望市場の自動車分野。車載での戦略部品は。
梅澤 車載では、話題のADAS(先進運転支援システム)やテレマティクスに代表される情報系からモーターやエンジン周りの駆動系への展開を進めている。我々の車載市場本格参入は3年ほど前のことで、情報系からスタートを切った。ここでは積層セラミックコンデンサー(MLCC)とパワーインダクターが売り上げのドライビングフォースとなっている。民生向けで培った技術をベースに、高信頼性商品のラインアップを拡げてきた。
これら高信頼性商品の性能や機能、信頼性が評価され、欧米を皮切りに、日本のティア1などでも事業成果が実を結び始めている。中期的には3倍以上に伸ばせるだろう。さらにテレマティクス市場では、FBAR/SAWフィルターも好調だ。現状はまだディスクリート供給が中心だが、数年内にはWi-Fiモジュールやブルートゥースモジュールなど、通信モジュールとしての提供に進化させていきたい。
―― MLCCの市場拡大は。
梅澤 MLCCで世界初となる静電容量470μFまで到達した。17年に1000μFを実現し、アルミ電解コンデンサーの市場置き換えを加速させたい。MLCCは周波数特性などが優れているため、アルミ電解コンと比較して、静電容量が5分の1程度の商品で置き換えが可能。1000μFが商品化できれば、アルミ電解コンからMLCCへの置き換えが一気に動くだろう。もはや時間の問題だ。
また、パワー半導体でのSiCおよびGaN採用に伴い、フィルムコンデンサー市場もMLCCが攻める。ここで求められるのは高耐圧化。自動車の電装化、電動化に向け、MLCCの技術を応用した電力コンデンサーで新規市場を創出していく。
―― 新規事業の立ち上げなどは。
梅澤 光変位センサーや匂いセンサー、圧電圧力波センサーなど、センサー事業を立ち上げる。また、LEDを使った可視光通信なども監視カメラ用途で有望だ。これらは当社の光記録メディアの技術などをベースにしたもので、16年度内にはビジネス化する計画だ。また、同製品群の販売力強化のため、専門商社との連携も強化する。
(聞き手・編集長 津村明宏/松下晋司記者)
(本紙2016年6月23日号12面 掲載)