電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第188回

ドイツのFESTOは生物学を学びロボティクスに行く


~自然動物観察から生まれた驚異の自動化技術は世界を変える~

2016/6/17

 2016年はIoT時代の本格到来がはっきりと見えてきた年として将来に記憶されることになるだろう。世界各国でIoT、CPS、M2Mなどの新たな技術革新が始まりつつあるが、ドイツはいち早くインダストリー4.0で世界に先行した。その立役者の1社であるFESTOは、これまでグローバルの空気圧機器メーカーとして知られてきたが、最近ではインダストリー4.0に貢献する自動化技術を次々と発表し、世界の注目を浴びている。

 FESTO社の日本進出は非常に早く、1977年6月には日本法人を設立している。90年1月には横浜本社社屋内にシリンダー製造工場を開設、さらに2007年にはシステム製品組立工場も開設するに至っている。次々と増資を行い、現在の資本金は13億円となっている。

 JPCA Show 2016の基調講演のトップを切ったのがFESTO社アジアパシフィックのHarry Vuksanovic氏である。同氏の話もさることながら、FESTO社の売り物の1つとなっている空を飛ぶトンボ、鳥などのロボティクスを見せてもらえると思ったが、ビデオ上映にとどまった。残念ではあったが、同氏のスピーチは実に興味深いものであった。

 蟻の動き方を見て未来の製造業に活用するという考え方がすばらしい。実際に蟻状のロボットをいくつも作成し、自然な流れで一致団結して協力行動をとる蟻のメカニズムを完全に分析したのだ。FESTOの作り上げたロボティクスの蟻は頭部の3Dステレオカメラを使用し、掴む対象のワークを識別すると同時に自分の位置も確認する。これにより、それぞれの蟻は目標物を見つけて、環境内で自分が置かれている状況について判断する。腹部の光電気センサーは床の構造を測定し、地面に対して蟻が移動する方法を指示する。こうした人工蟻の行動分析を続けて、同社は個別のシステムを高度に組み込む共通のタスクを解決していった。

FESTO社のHarry Vuksanovic氏
FESTO社のHarry Vuksanovic氏
 「生物学を学ぶことは非常に重要だ。自然に生きている生物たちの行動を見れば、生き残るために何をやっているかが良くわかる。蟻同士のコミュニケーションやクラゲのコミュニケーションなどのやり方をよく学習すれば、マシーンとマシーンのコミュニケーションをどうすればよいかが良くわかってくる。生物学を学びロボティクスに行くというのはFESTOの重要な方向性であり、近未来のオートメーションの世界がそこに広がっている」(Harry Vuksanovic氏)

 思えば18世紀に始まった最初の産業革命は、機械的生産の夜明けであった。20世紀に入って始まった第2次産業革命は、自動車のフォードに代表されるベルトコンベア式の大量生産であった。70年代に入ると第3の産業革命ともいうべきマイクロエレクトロニクス革命が起こってくる。その中心のコアはやはり半導体の加速度的発展であった。そして今、第4次の産業革命が巻き起こってきた。これは、ロボティクスとコンピューターがクロスオーバーし、知的集約が進み、エネルギー効率の良さも追求するという新たな技術革新の流れといえよう。ドイツの提唱するインダストリー4.0は省エネ化、省人化を圧倒的に進める手法であり、大きなコストダウンも生み出すことから、世界の注目を浴びている。

 「トンボの羽は実に複雑だ。4つの羽は一緒には動かず、個々に動いて状況に適用しコントロールしている。カメレオンの舌、象の鼻、空を飛ぶ鳥の生物学的コントロールを見れば、何とフレキシブルであるか、そしてまた生きていく環境に適用しているかが良くわかる。こうした動物のメカニズムは、将来の工場の組立ラインのあり方を示している」(Harry Vuksanovic氏)

 FESTO社の彼が言いたかったことは、機械同士がお互いにコミュニケーションし、機械そのものが学んでいくことがなければ、真のインダストリー4.0ではないということなのだ。機械が進化していけば、お互いの責任に学び、独自のソフトウエアもできてしまう。メンテナンスが必要なことも機械が自らアピールする。FESTO社の場合は、アクチュエーション、バルブ、センサー、PCボードをたった1つのセンサーモジュールに積み込み、すべてを動かしてしまう。インテリジェンスを持つスマートコンポーネントを作り上げたわけであり、生産効率は一気に上昇するのだ。

 「FESTO社は生物学に学んだオートメーションのリードメーカーとして、今後もあらゆる業界に貢献していく。すべての会社が来るべきインダストリー4.0にチャンレンジしてほしい。サイクルタイムを短くし、大きなコストダウンに成功し、個別の生産をカスタム化することでライバルに勝て、と言いたいのだ」(Harry Vuksanovic氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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