電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第186回

階段から生まれるコミュニケーションも「おもしろ おかしく」!!


~「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」のコンセプトは実に斬新~

2016/6/3

 2016年5月23日のことである。京都企業を代表する1社である堀場製作所は、滋賀県に湖西最大級の開発・生産拠点「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」を竣工させ、開所式を盛大に開催した。琵琶湖を一望できるロケーションの良いところに立ち上がった新たな拠点は、新方式の少量多品種生産でリードタイム1/3、生産性2倍を目指すという。

HORIBA BIWAKO E-HARBOR開所式にのぞむ堀場厚会長兼社長(左)と大津市長の越直美氏(右)
HORIBA BIWAKO E-HARBOR開所式にのぞむ
堀場厚会長兼社長(左)と
大津市長の越直美氏(右)
 この開所式に呼ばれた筆者は、冒頭の全来客者の写真撮影から驚かされた。頭上高くにあるクレーンからの写真撮影、およびその横にブンブンと飛び回るドローンにも目を奪われてしまった。正面玄関の奥には、堀場製作所の創業者である堀場雅夫氏の社是とも言うべき「おもしろ おかしく」が書かれた船の帆が高く掲げられていたのだ。

 120億円を投じたこの新開発・生産拠点は、地上10階建て延べ2万7500m²というスケール。一通り見学させていただいたが、随所に見られる建物の工夫にはこれまた驚かされた。建物の一等地には吹き抜けの階段が設けられている。社員はエレベーターを使わず、階段で1日に何度も顔を合わせることになる。フロアを越えた「縦」のコミュニケーションを円滑にするための工夫なのだ。この階段から生まれる社員同士の「知の交流」こそが最も重要な建物の仕掛けなのだといってよいだろう。

 6階のオフィスはオープンなワンフロアとなっており、そこら中に話し合うための机と椅子が置かれている。しかも、同一フロア上に開発、設計、生産が集結しており、一部はガラスで仕切られている。もっと驚いたことは、このフロアの中央に各部門の責任者が一カ所にデスクを並べているのだ。つまりは、開発部長、設計部長、製造部長が集結することにより、即断即決ができる体制になっている。筆者も多くの工場や研究所を見てきたが、こうした工夫はまず見たことがない。そしてまた、各社員がその責任者集結ゾーンに行けば、話はとんとん拍子に進んでいく。

 ところで、「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」は5つの“E”を実現し、世界のHORIBAグループの工場を“One Production”として牽引していく母港(ホームハーバー)となるフラッグシップ工場を標榜している。

 5つの“E”とは、Engineering(受注開発、生産を革新するプロダクトエンジニアリング)、Energy system(ハイエンドなガス分析システムの提供)、Enhancement(品質・人材・生産性の向上)、Environment(琵琶湖横のロケーションで環境配慮型の工場)、Engagement(カスタマーとの共鳴・約束、部門間の連携強化)を意味している。

 それにしても、HORIBAのここに来ての開発および量産に対する設備投資の急加速にはびっくりしてしまう。12年に熊本県阿蘇に半導体/医療向けの新工場を立ち上げた。13年には京都の福知山に新立地し、開発センターを新設した。15年には京都本社工場内にセンサーなどの開発と生産を集約したHORIBA最先端技術センターの整備を進めた。またフランスにおいては、グループのHORIBA・ABX社の新開発棟も先ごろ完成させている。そして極めつけはこの「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」なのである。

 開所式、現場視察の後で行われた懇親パーティーでの席上においては、滋賀県の三日月知事、美人で評判の大津の越市長、さらには近畿経産局長などの賓客の方が次々と挨拶された。もちろん、HORIBAの総帥である堀場厚会長兼社長も挨拶をされ、次のようなコメントで受けを取っていた。

 「このHORIBA BIWAKO E-HARBORには、ベテランの人たちの知的財産を集約し、それを若い世代に伝承するという重要な役割を担ってもらう。現状でHORIBAグループの売り上げは2500億円となっているが、社員たちにはパイの大きさを追うなと言っている。多品種少量生産に磨きをかけ、よどみなきモノづくりを進めれば自然と売り上げは増大する。100歩前ではなく1歩前に進めと常に言っているが、いかにもHORIBAらしい考え方だろう。熊本大地震で被災した熊本県阿蘇の工場は、実を言えば一番儲かる工場であった。それが被災で直撃されたが、これからはこのHORIBA BIWAKO E-HARBORがいっぱい稼いでくれるだろう」

 ところで、「週4日集中して働き、3日休む」という考え方がある。創業者・堀場雅夫氏は1969年にびわこ工場用地を取得するにあたり、通勤時間さえも短縮できる全寮制工場の夢を描いていた。その夢は86年に「一部週休3日制」として実現し、現在に続いている。仕事も遊びも全力で楽しむ、社是「おもしろ おかしく」実現の夢は、このHORIBA BIWAKO E-HARBORで育まれていくことになるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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