電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第180回

ソニーのPS4は累計販売台数3600万台でブッチギリ世界首位


~デバイス設計変更が奏功し、競合のマイクロソフト、任天堂に大差~

2016/4/22

 「家庭用ゲーム機の世界でソニーのPS4の存在感はいやがうえにも増している。2016年2月時点でのPS4の累計販売台数は何と3600万台を超えて独走状態に入った。競合する米マイクロソフトのXbox Oneは約1900万台、かつてのゲーム機の王者である任天堂のWii Uは約1200万台にとどまっており、大差をつけている。家庭用ゲーム機の世界はソニーが大勝利したという事実は大きい」

 かなり興奮しながら、こう語るのはゲーム機業界の専門誌のあるトップ記者である。家庭用ゲーム機といわれる据置型の世界市場は、あまり伸びていないと見る向きが多い。しかしこの3年間で日本市場だけが縮小しているものの、北米や欧州では再び勢いを取り戻し、世界市場は伸び続けているのだ。

 エリア別の家庭用ゲーム機の市場規模は14年段階で世界市場が約2.4兆円となっており、何とこのうち半分が北米マーケットで、1.2兆円を超えている。欧州もまた一大市場であり、1.1兆円に拡大しているが、2年前の12年段階では8000億円であり、一番伸びたエリアであるのだ。これに対して日本市場は12年段階で5000億円にも届かず、14年にはついに4000億円を割ってきた。

 すなわち、日本においてはスマートフォン向けゲームが一気に台頭し、家庭用ゲーム市場を大きく圧迫しているのだ。かつての世界チャンピオンである任天堂の苦戦はここにある。基本的に、任天堂のターゲットは国内であったのだ。これに対してPS4は出荷台数の9割を海外が占めている。世界で戦うソニーが、やはり断然の強さを発揮し始めたといえるのだろう。

 PS4は13年11月に市場投入された機種であり、プレステシリーズのなかで大きな設計変更を行った。実はこれが奏功した。発表時のデバイスの仕様を見てみれば、CPUはかなりスタンダードなAMD製であり、CPUコアは「Jauar」による8コア構成。GPUはこの段階で詳細が公表されていないが、「Radeon」をベースとしていると見られる。メモリーはGDDR5で8GBが搭載された。

 これまでのプレステはPS3のCellに代表されるようにCPU、GPUともにソニー・コンピュータエンタテイメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の自社設計チップを採用していた。しかし、PS3で問題として浮上したのは開発費の高騰であった。つまり、儲からないプレステであったのだ。そこで、PS4では汎用チップに改良を施すという方針転換を図っている。分かりやすくいえば、パソコンに使われている米インテルのX86アーキテクチャーを採用したのだ。パソコンと同じようなシステムで開発できるために手間や費用が抑えられ、多くのソフトウエアメーカーが参入しやすくなった。ハードの普及に欠かせないのがソフトの供給量である。PS4の利益はハードの開発・製造投資の抑制で非常に高いことも特徴なのだ。

 さて、ゲーム機部門が今やソニーの孝行息子に再びのし上がったことは確実であり、エポックメイキングなことだ。15年度のゲーム部門の売り上げは1兆5200億円となる見通しであり、全社売り上げ見通しの7兆9000億円に対し、約2割を占めている。ゲーム機分野における利益は、15年度中間期で800億円と発表していたが、上方修正され850億円となる見通しだ。これは実に全社利益の26.5%にあたるわけであり、要するにはソニーの儲けの4分の1強をプレステで叩き出していることになる。

 ちなみに、半導体のCMOSセンサーで大暴れするソニーであるが、CMOSセンサーをコアとする電子デバイス分野の15年度売り上げは9500億円にとどまる見通しであり、デバイス部門の利益はリチウムイオン電池の不振、中国マーケットの伸び悩みなどにより、390億円に下方修正されている。ますますもってプレステは孝行息子であるといってよいだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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