冬が終わろうとする頃から春先まで、全国各地で酒蔵の蔵開き便りが舞い込んでくる。蔵元の多い地域では、自治体がバックアップして合同で開催し、何万人という人出でお祭りとなっているところもあるようだ。
筆者の住む福岡県では、県南の穀倉地帯、筑紫平野に酒蔵が数多く集まり、他の地域は点在する形で歴史を重ねている。先日、行きつけの飲み屋の常連客で話がまとまり、最近、地元で人気が出ている八女市の蔵元「喜多屋」の蔵開きに、おじさんたち6人でゾロゾロ出掛けることになった。
当日は天気に恵まれ、JR博多駅で待ち合わせ、鹿児島本線下りの普通電車に乗った。各駅停車でのんびり行く。普段スーツ姿を見慣れている常連客も、カジュアルな服装で穏やかな顔をしている。蔵開きに行き慣れている仲間が言うには、蔵元によってシステムが違うから、「喜多屋」がどんなシステムなのかは行ってみないとわからないという。
八女の「羽犬塚」という駅で降りる。初めて降りる駅だ。駅前に羽の生えた犬の塑像があった。何かいわれがあるのだろうと思いながらも、幹事がローカルバスの「堀川バスに乗り換えます」と言うから、指示に従う。バスは始発だというのに、すでに満員で、さらに次から次へと乗り込んできた。みんな「喜多屋」の蔵開きの客だ。みんなにこにこしているからわかる。詰め込まれて出発し、20分ほどで着いた。
「喜多屋」は江戸時代末期の文政年間に創業し、約190年の歴史があるという。この「喜多屋」が2013年、世界で最も影響力のあるコンペティションとして知られているIWCで、出品した「大吟醸 極醸・喜多屋」が「チャンピオン・サケ」に選出されたことから、人気に火がついた。
人気蔵元の蔵開きは最高の人出だった。ぐい飲みを1個200円で買う。そのぐい飲みを持って所定のところに行けば、たる酒をついでくれる。200円で飲み放題だった。空クジなしのスピードくじもあった。
敷地内には焼き鳥やから揚げを売っている露店も出ており、もちろん持ち込みも自由で、我々はバッグから、ピーナッツなど定番の乾き物を出した。運動会のような重箱の弁当を広げている家族もいた。酒が飲めても飲めなくても楽しい空間だと、真っ昼間からおじさんたちは酔いにまかせていた。