電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第178回

ニッポン半導体凋落の最大要因は設備投資ができなくなったことだ


~ダントツ家電産業の後退、日米半導体協定も誘引~

2016/4/8

 「ニッポン半導体がこの10年間で一気凋落の図式にあるが、その前に日本のデジタル家電産業の急減速が追い打ちをかけている。ほんの10年前までは日本のデジタル家電は32兆円の規模であり、自動車の50兆円とともに輸出産業の中核を占めていた。これが一気に3分の1の10兆円まで落ちてきた。輸出産業の花形は、右ウイングが自動車で、10年前に50兆円、現在は60兆円の生産規模にあるだろう。しかして、左ウイングを務めていた家電産業は今や10兆円であり、この姿を見るだけでもおぞましい」

 こう語るのは、かの著名アナリスト、南川明氏である。確かに、この数年間にわたっても世界を席巻するほどのデジタル家電製品は、日本企業に限って言えば全くといってよいほど出ていない。常に世界初、という画期的な家電を作り上げた70~80年代の日本の電機産業は全く元気がなくなってしまった。

 現在にあって、テレビの世界チャンピオンはサムスンであり、これを追撃する第2位は同じく韓国LGだ。かなり離された第3位にソニーがいる。かつて一世を風靡したアナログ時代のトリニトロンテレビで、世界チャンピオンを十数年続けたソニーの存在感は薄れてきた。ただし、後でも述べるが、ソニーテレビのブランド力は今でも世界に通用しており、高級品としてこれを買いたいという世界の人たちの声は多い。

 スマートフォン(スマホ)にあっても、台数ベースの世界一はやはり韓国サムスンのギャラクシーであり、金額ベースでいえば断然トップはアップルのiPhoneであることは誰でも知っている。そして国産のスマホおよび携帯電話はまことにみじめな姿を晒している。日本の携帯電話は、日本でしか通用しないガラケーと長く呼ばれてきた。スマホの世界ランキングで上位入りしているのはソニーのエクスペリアであるが、第11位という座にとどまっている。それでも重要なことは、テレビにおいてもスマホにおいても、世界のなかのポジションでいえば、日本代表はやはりソニーなのだ。

 さて、何ゆえにかつて最強といわれたニッポン半導体が一気に凋落していったのか。その原因は何といっても、大型設備投資を断行しない勇気の無さと、資本力の喪失にある。半導体産業は売り上げの15~20%は設備投資するというほどの典型的な装置産業であり、要するに投資を止めればすべては終わりという構図のなかにいる。

 かつて日本半導体が強かったのは、世界でダントツの家電産業を持ち、これがいっぱい稼ぎ、その資本力を半導体設備投資に集中したからだ。それは80年代後半のことであり、このころ日本の大手電機の幹部たちに会えば皆、「情報通信で稼いでも、家電で稼いでも、みんなお金は半導体に持っていかれる」と、ひどく嘆いていた。半導体は金食い虫だ、という幹部社員の恨み言を筆者はどれだけ聞いたかわからない。

 そして、また半導体勝利の方程式を崩していったのは日本を襲った90年のバブル崩壊であった。一時期は株価4万円に近づく状況であった東京株式市場は90年10月1日に、ついに2万円台を割り込み、9カ月で半分に下落するというすさまじさであった。これが要因となり、日本の電機メーカーは大型設備投資を行う資本力を失った。このころを思い出せば、ちびまるこが登場し、子供たちの評判をさらっていた。男を立身出世させる女性は「あげまん」と呼ばれていた。

産業タイムズ社刊「日本半導体50年史」より
産業タイムズ社刊「日本半導体50年史」より
 こうした経済崩壊で苦しむ日本に追い打ちをかけたのが、日米半導体協定であった。91年6月には日米半導体新協定がスタートし、何と日本は使用する半導体の20%を外国から買わなければならない、という協定が結ばれた。実質的には日本の半導体をぶち殺したいと思っていたインテルをはじめとする外国勢の声を反映した協定であり、欧州政府は皆、この協定はGATT(国際貿易間協定)違反だとして怒り狂っていた。しかしながら、日本政府はまさに土下座外交で、これを守るように各企業に命令したのだ。

 この間隙を縫って、半導体協定の縛りを受けない韓国がメキメキと力をつけてきた。韓国はこうした状況に対し、すべて蚊帳の外にあり、日本のメモリーを潰してしまえ、と考える米国勢は韓国のメモリーを応援したのだ

 そしてまた、93年ごろからダウンサイジング革命が進展し、コンピューターはメーンフレームからパソコンに大きくシフトした。パソコンが主役の時代が到来し、CPUはインテル、OSはマイクロソフトですべてが進む「ウィンテル」となり、日本はこの分野で主導権がとれず、一人負けの様相を呈した。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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