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第164回

キヤノントッキ(株) 代表取締役会長兼CEO 津上晃寿氏


有機EL装置、16年は売上倍増
3段構えで生産能力2倍以上に

2016/4/1

キヤノントッキ(株) 代表取締役会長兼CEO 津上晃寿氏
 米アップルがiPhoneに有機ELディスプレーを採用するという動きに触発され、世界中のFPDメーカーから有機ELの事業化計画が続々と浮上している。この生産に不可欠である真空蒸着装置において、量産機ではほぼ唯一無二の存在と言えるのがキヤノントッキ(株)(新潟県見附市新幸町10-1、Tel.0258-61-5050)だ。代表取締役会長兼CEOの津上晃寿氏に直近の状況や今後の取り組みを聞いた。

―― 有機ELの事業化が盛んです。貴社の業績は近年どう推移していますか。
 津上 当社は、得意とするFA技術と真空技術をベースに有機EL真空蒸着装置を20年以上手がけてきたが、装置需要には大きな波がある。FPDメーカーの投資動向に大きく左右されるためだ。
 2013年(13年12月期)の売り上げは好調だったが、14年度の売り上げは落ち込んだ。だが、15年度は再び13年を超えるレベルまで盛り返している。
 この間、ありがたいことに14年度と15年度は売上高を超える受注をいただいており、これにより16年度の売上高は15年度比で倍増すると見込んでいる。

―― 納期を提示できる状況にありますか。
 津上 納期については、お客様の戦略に関わることなので差し控えたいが、お客様の要望にお応えすることをトッププライオリティーに掲げ、真空蒸着装置の生産キャパシティーの拡大に全力を挙げている。(1)当社における人員増強、(2)複数の協力会社における生産能力の増強、(3)キヤノングループにおけるリソースの有効活用、という3段構えで従来比2倍以上の生産キャパシティーを構築中だ。
 キヤノンでは、産業機器ビジネスの拡大に向け、当社のサポート体制を敷いていただいている。

―― 改めて貴社の真空蒸着装置について。
 津上 有機ELはマザーガラスのサイズがまだ大型化の途上にあり、お客様との秘密保持契約のもと1台1台が受注生産となるため、スペックは細かく開示できないことをご理解いただきたい。
 概して言うと、当社の真空蒸着装置「ELVESS」はクラスター型がメーンで、量産工場ではこれに真空搬送ラインがつながる構成になる。スマートフォン用およびテレビ用の量産サイズにELVESSはすべて対応できている。ガラス基板のサイズが第2世代(2G)だったころはライン長が50m程度で済んだが、現在の量産サイズだと100mを超えるものもある。
 この間すべてを真空下で安定してガラス基板をハンドリングする必要があり、当社は144時間の連続プロセスに対応可能だ。パターニングのアライメント精度は±5μm以下としているが、ディスプレーの高精細化に伴ってさらに高い精度を求められており、お客様との綿密な協議によって最終的な精度を決定している。また、マザーガラスの大型化に伴い、蒸発源の大型化が必要だ。

―― 今後の取り組みは。
 津上 まずは生産キャパシティーの拡大を第一とし、エンジニアの増員や教育研修および生産要員の技能研修を強化して、お客様の生産立ち上げから量産までを支援できる体制作りに引き続き力を入れていく。
 並行して、組織力を最大化する取り組みにも注力する。急激な増員に伴い、組織の求心力として企業理念を共有することが大事だと考えている。理念共有を目的とした社内ワークショップの開催や社内表彰制度などを充実させ、組織で動く企業作りを実現していく。
 また、有機EL市場の拡大に伴い、装置市場も競争環境が一層厳しくなることが予想される。これに備えて製品力の強化を加速したい。具体的には、アライメント技術や蒸発源技術、基板搬送システム技術などを磨き上げ、高精細化の実現やタクトタイムの短縮による生産性向上を図っていくつもりだ。

―― 有機EL製造装置以外に、薄膜太陽電池製造装置や電子部品製造装置も手がけています。
 津上 有機EL製造装置は重要な事業の柱だが、将来の安定成長を図るため、並行して新分野の強化にも力を入れていく。薄膜太陽電池装置は、化合物系太陽電池の材料を成膜するインラインスパッタだ。ただし、薄膜太陽電池の投資も波が大きいため、まずは電子部品の製造装置市場を開拓したい。
 電子部品用では、15年5月に独自のRR(Reactive Rotary-cathode)システムを搭載したスパッタリングシステムを発売した。ロータリーターゲットの採用で膜厚均一性や成膜速度、材料使用効率をプレーナー型カソードから大幅に高めており、SAWデバイスやFBARデバイス、実装基板向けに提案している。かなりの引き合いをいただき、すでに商談に入りつつある。6月に開催される「JPCA Show」でも改めてご紹介する予定だ。

(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2016年3月31日号1面 掲載)

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