山陰エリアの担当になり、特に島根県に行く機会が増えた。大阪からは、新幹線で岡山駅まで行き、岡山駅で特急「やくも」に乗り換え、松江駅や出雲市駅などに向かう。もうひとつは、大阪国際空港(伊丹空港)から、出雲縁結び空港まで飛行機を利用する空のルートが一般的だ。鉄道と飛行機の利用料金を比較すると飛行機の方が約2倍高い。一方、鉄道は約1.5倍の時間がかかってしまう。その時の状況に応じて交通手段を使い分ける必要がありそうだ。
初めて訪れたのは、出雲大社で有名な出雲市だった。鉄道を利用して行くこととなり、岡山駅で「やくも」に乗り換えた。岡山駅から出雲市駅までの所要時間は約3時間もあるため、ノートパソコンを開き、原稿を書くことに。しかし数分後、原稿を書くどころではなくなった。列車の揺れがひどく、少し酔ってしまったからだ。
確かに、列車は私が未だかつて見たこともない渓谷を走っている。さらに、車両も古いらしい。調べてみると「振り子式車両」と呼ばれる旧国鉄時代の車両を使用しているようだ。2011年までに車内の座席シートや設備がリニューアルされ、以前よりも快適に乗車できるようになったそうだが、そう簡単に揺れはなくならない。座席の前にある網には、山陰エリアの案内パンフレットとともに、エチケット袋まで用意されている。他の列車ではまず見ない光景に驚いた。
それでも、その日に出したい原稿があるため、気を奮い立たせてパソコンに向かうと、今度は充電が残り少ないことに気づく。自宅での充電が十分でなかったことを悔やみながらコンセントを探したのだが、「やくも」にコンセント機能が備わっていないことが発覚した。
どこの地方の特急列車でも、大抵は一番前の座席にコンセント設備が備わっている。しかし、座席周辺を見渡してみてもコンセント設備がないことに、ものすごく落胆した。
出張中はノートパソコンやスマホで地図を調べたり、メールをチェックしたりすることが多いため、充電環境は万端でないと困る。特に地方の山間部や海沿いなどでは電波が悪く、充電の減りも速くなるので、今どきの旅の友にコンセント設備は必需品だ。
2度目に「やくも」に乗る際は、前日の夜に充電機能が備わっていないことを思い出し、早朝にわざわざ携帯式充電用バッテリーを購入した。出張は、色々と準備が面倒だと改めて感じた瞬間だった。せめて、コンセントくらい特急列車には備えてほしい。
「やくも」は揺れるし、コンセントはないし、最悪だと思うが、何度も乗ると愛着も少し湧いてくる。古いローカル列車には鉄道ファンも多いのか、駅のホームで「やくも」の写真を撮っている人の姿を毎回見る。「やくも」での出張も悪くないと思える日が私にも来るのだろうか……。