クアルコム(米カリフォルニア州、日本法人=東京都港区南青山1-1-1、Tel.03-5412-8900)は、スマートフォン(スマホ)を中心としたモバイル分野向けに、優れた技術優位性、幅広い製品ラインアップを持つモバイルプロセッサー「Snapdragon」シリーズを展開しており、同市場で圧倒的なトップシェアを有している。2015年8月に英CSRの買収を完了。車載向けソリューションとIoT関連の組み合わせが実現し、将来に向けた技術革新が可能となった。また、16年1月にはTDK(株)と高周波フロントエンドモジュールやRFフィルターを提供する合弁会社「RF360 Holdings Singapore PTE. Ltd」の設立に合意。両社の強みを融合した最先端のRFソリューションによる統合システムの提供が可能となる。シニアディレクター ビジネス開発兼広報・マーケティングの野崎孝幸氏に今後のビジネス戦略・製品戦略を伺った。
―― 15年9月期業績では、MSMチップの出荷は伸長したが、売上高は減収だった。その背景は。
野崎 周知のとおり、昨今のスマホ市場は、先進国では買い替え需要が中心となり、市場の牽引役は新興国が担っている。このため、当社のMSMチップのプロダクトミックスにおいてエントリーモデルの構成比率が増加し、結果として出荷数量は増加したが減収となった。
―― スマホ市場の成長率にも陰りが見え始めているようにも思えるが。
野崎 15年10~12月期時点で携帯電話の契約台数は約73億台。その構成比率は、2Gが依然として51%を占める(3G:35%、3G/LTEマルチモード:14%)。また、15~19年の5年間でスマホの総出荷台数は85億台が見込まれており、そのマーケットポテンシャルは非常に大きい。
また現在、標準化の議論が進められている5Gについては20年ごろのコマーシャル・ローンチが計画されているが、技術要素の多くは4G/LTEで提供・開発しているテクノロジーの延長線上にある。今後も4G/LTEでしっかりとしたポジションを堅持し、先端ニーズに対応した技術開発に取り組んでいく。
―― 製品戦略をお聞かせ下さい。
野崎 Snapdragonとしてハイエンド端末対応の「800/600シリーズ」、メーンストリーム向けの「400シリーズ」、エントリーモデル向けの「200シリーズ」をラインアップし、セットメーカーの幅広いニーズに対応している。
例えば、新興国向けのローエンド端末を手がけるセットメーカーからはリファレンスでの提供ニーズが多く聞かれるが、当社では、部品メーカーとの協業によりクアルコム・リファレンス・デザイン(QRD)をすでに提案しており、ローエンドスマホ事業のコアとなっている。
―― ハイエンド向け製品について。
野崎 Snapdragon「820」が最新製品となる。14nmプロセスを採用した新CPU「Kryo(クライヨ)」を搭載しており、従来の「810」に比べて約2倍の高速性、40%の省電力化を実現している。すでに100機種以上で開発が進められており、16年前半には搭載機種がリリースされる予定だ。
―― 今後の成長戦略について。
野崎 15年10月に公表させていただいたのが、サーバー関連(データセンター)分野への本格参入だ。同分野ではX86サーバーが主流となっているが、当社ではARMコアを採用。これまでモバイル向けで培ってきた低消費電力での優れた処理技術などを強みとして、同分野での事業拡大を目指していく。
―― 自動車関連でも徐々に存在感が増しています。
野崎 すでに車載用としてSnapdragon「602A」(1.5GHzクアッドコア、Adreno320GPU、GPS・GLONASSサポートなど)を製品化しているが、アウディ社が17年モデルの「A5」に同チップを採用する。
また、Snapdragon「820」の車載版となる「820A」を展開している。大きな特徴の1つが、人工知能・ディープラーニング対応のリアルタイム・コグニティブ・コンピューティングを実現するプラットフォーム「Zeroth」の搭載だ。これにより自動車は、ドライバーと対話したり学習することが可能となり、より安心・安全・快適な運転を実現することができる。
(聞き手・清水聡記者)
(本紙2016年3月24日号1面 掲載)