電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第175回

メガチップスの子会社SiTimeのMEMS発振器は超サプライズ!!


~従来比1/10の低消費電流、世界一クラスの超小型を実現しシェア90%~

2016/3/18

 「IoT、ウエアラブルの時代を迎えて重要度を増してきたのは、タイミングデバイスの世界だ。SiTimeのMEMS発振器は、従来の水晶製品に比べ消費電流が10分の1という驚異の数字を叩き出している。しかも、超小型で周波数は抜群に安定している。タイミングデバイスの世界で革命が起きるかもしれない」

第1回NEDIA DAY関西はコンテンツも充実し大盛況であった
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 こう語るのは、メガチップスにあってマーケティング室戦略企画部部長の米田秀樹氏だ。日本電子デバイス産業協会が開催した第1回NEDIA Day関西というセミナー(2016年3月8日、新大阪丸ビル)の講演壇上でのことである。周知のようにメガチップスは、今や世界のトレンドとも言うべきファブレス半導体メーカーとして知られている。ファブレスでは国内トップであり、全世界ランキングでも25位以内に食い込んでいる。同社が2014年に買収し、完全子会社とした会社がSiTimeなのである。

 最近では少し良くなったものの、携帯電話を落として壊れてしまうことがままあるが、そのほとんどは水晶発振器がだめになってしまうのだ。ところが、SiTimeのMEMS発振器は接着工程がないために衝撃や振動には非常に強い。しかも、鉄より強いといわれる単結晶シリコンを用いて安定した品質を保持しており、金属疲労もないため抜群の長寿命を誇るのだ。

 SiTimeのプログラマブルMEMS発振器は1Hzから625MHzまでの周波数範囲を持ち、SiT8021という製品にいたっては消費電流が0.06mAというレベルを達成しており、これまでの水晶発振器に比べ消費電流を90%削減している。また、周波数変換回路、温度補正回路を集積したCMOSチップとMEMS設計技術によるMEMS振動子を一体化してパッケージしており、どんな周波数にも対応できるのだ。水晶と異なるのは、発振器の周波数をテスト時のプログラミングにより指定できることにある。ウエハー状態で在庫すれば大規模量産時も短いTATで出荷が可能なのだ。

 「このMEMS振動子の製造プロセスは実にユニークだ。エピタキシャルプロセスにより、MEMS振動子を真空封止する。1000℃以上の高温処理を行うのだ。Gapに不純物がないので、高精度状態を保持できる。厚い多結晶シリコンのシールにより、10年たっても真空という長期間保持が可能なのだ。金属疲労がなく、強固な単結晶シリコンで作られるため、非常に安定した動作を行う」(米田氏)

 SiTimeのMEMS発振器はこれまで3億個以上の出荷実績を持つが、創業(2003年)から現在に至るまでMEMS振動子の市場不具合はゼロという優れものなのだ。こうしたMEMSタイミングデバイスの分野では実に90%のシェアを持っている。
 MEMS発振器の応用分野はウエアラブル、モバイル、IoT、車載、産業機器、通信機器など様々であるが、SiTimeの場合、ウエアラブル分野で圧倒的に強く、おそらくは7割近いシェアを持っていると思われる。

 「LSIパッケージへの集積に適していることも特徴だ。通常の発振器は外付けになっているが、SiTimeの製品はインパッケージで内蔵可能になる。そしてまた、超小型化という点で群を抜いており、世界最小サイズ(1.5×0.8mmCSP)を実現しており、水晶製品と比較して実装面積も60%以上削減できるのだ」(米田氏)

 このメガチップスの米田氏による製品発表に対し、会場内にはかなりのインパクトがあったようであり、講演後に質問が相次いだ。今やIoT元年とも言われる年となり、ウエアラブルデバイスも本格化の様相を見せているが、これまでの水晶発振器を凌ぐMEMS発振器が出てきたことに聴衆は驚きを隠せない様子であった。

 この講演が終わった後に、NEDIA関西の副代表でもあるメガチップスの高田明社長が挨拶をされたが、会場からは大きな拍手が巻き起こった。筆者は高田社長にこのMEMS発振器はすごいですね、と感想を述べたが、深くうなずかれたうえでこうコメントされた。

 「MEMS振動子を用いたMEMS発振器については、この10年間、世界で5~6社がチャレンジしたが、事実上成功したのはSiTimeただ1社であった。この会社をメガチップスのグループに加えることができて非常にうれしいと思っている。発振器の市場は世界で2000億円となっており、振動子まで加えれば4000億円はある。SiTimeの首脳は、高付加価値品のシェアで50%は取りたいと言っており、今後が実に楽しみだ」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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