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第162回

ディアマン 取締役社長 トビー・ピータース氏


液体窒素エンジンを事業化へ
日本企業との協業に期待

2016/3/18

ディアマン 取締役社長 トビー・ピータース氏
 ディアマン(英ロンドン、日本事務所=大阪市北区角田町1-12、Tel.050-3136-0623)は、液体窒素を動力源に用いた独自の「ディアマンエンジン」の事業化を進めているベンチャー企業である。欧米だけでなくアジア市場への進出を計画しているが、なかでも日本では自動車や冷却技術の協業に期待しており、重要な地域と位置づけている。取締役社長のトビー・ピータース氏に話を聞いた。

―― 創立の経緯から。
 ピータース 2011年にディアマンエンジンの発明者であるピーター・ディアマン氏の技術を事業化させることを目的に創立した。イノベーションとは、単に発明やアイデアそのものを指すのではなく、それを世の中に反映させていくことだという考えからだ。ディアマンエンジンは冷気と動力の両方を供給できる技術であり、冷却を必要とする多様な用途に展開できる。

―― ディアマンエンジンの仕組みと特徴を。
 ピータース 液体窒素は気化する際に、容積が700倍以上に膨らむ。これを動力に利用するのが基本的な仕組みだ。ディアマンエンジンは独自の構造によって熱交換液の温度を一定に保つことができ、高効率での気化を実現している。用途は、冷気と動力の両方の利用に特化する。従来は冷気を得るために電気を用いており、そのための発電や蓄電が課題となっていた。我々は産業界に対して、電気を介さずに冷気が得られるならその方が高効率ではないか、という問いを発している。

―― 応用分野について。
 ピータース 最も有望視しているのが生鮮食品輸送トラックなどに用いられる車載冷蔵システム(TRU)で、冷却コストが90%を占めている。これにディアマンエンジンを採用すると、従来のディーゼルエンジン車と比べた場合、CO2を最大で40%削減できるとともに、NOxなどの環境汚染物質を排出しない。また、既存の冷蔵システムと比べて庫内の冷却スピードに優れるとともに、音も静かだ。高パフォーマンスを実現している一方で、コストは従来システムとほぼ同等だ。
 TRUを搭載するコールドチェーン車両は、25~30年ごろに現状の4~5倍に増大すると予想されている。しかし、それだけの需要をディーゼルエンジン車のみでまかなうと、環境負担が多大になる。ディアマンエンジンは環境負担を上げずにコストメリットを発揮できる。また、生産から販売までのコールドチェーンにおける食料ロスは40%にものぼると言われており、その低減にも貢献できる。
 TRU以外では、バスやデータセンター、病院、スーパー、ビルなど、多大な冷却エネルギーを要する分野に展開できると想定している。

―― 液体窒素を用いるメリットは。
 ピータース 液体窒素は冷気、動力を媒介する動力源として優れているだけでなく、調達面でもメリットがある。産業ガスメーカーが液化技術を確立しており、既存のインフラを活用できる。英国では1日あたり2000tの余剰液化窒素が発生しており、これは英国内のコールドチェーン車両の15%である1万2000台に相当する。英国では大手産業ガスメーカーのエアープロダクツと協業している。今後日本で展開する際には、日本の産業ガスメーカーと協力したい。

―― 事業化計画について。
 ピータース 英国では顧客の車でのTRUの実証実験をスタートしており、17年に数百台、18年に5000~1万台に拡大させる予定だ。また、17年からは定置型の実証を行う。まずはスーパー向けに展開し、18年の商用化を予定している。さらに17年末~18年初めにはバス向けの実証を開始する。英国以外の欧州、北米市場では17年からTRUの実証を開始する計画だ。

―― 日本企業との協業に期待を持っている。
 ピータース 日本は製品、技術開発において重要な市場と位置づけている。自動車や冷却において先進的な技術を持った企業があり、協業することで新たな技術や製品の開発が期待できるからだ。日本企業はイノベーションをビジネスに落とし込むのが得意だと考えており、ぜひ当社の強みを融合させることで応用技術を開発し、世界展開のスピードを加速したい。アジア方面では東南アジアやインドにおいて高い冷却ニーズを見込んでおり、日本との協業による成果を反映させて展開していく。

―― 日英シナジーの創出が楽しみです。
 ピータース 15年に日本事務所を設立してPRを行っているが、企業、大学や政府機関から強い関心を持っていただき、支援を受けている。今後、食料問題などに対応するため冷却ニーズはますます高まると予想される。その解決のためには、コストと環境負担を増大させない「クリーンコールド」を目指さなければならない。日本の技術とのシナジーにより、その実現を加速させたい。

(聞き手・中村剛記者)
(本紙2016年3月17日号2面 掲載)

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