ふくおかIST 先端半導体設計センター長
藤元正二氏
「福岡県先端システムLSI推進会議とロボット産業振興会議が合流した。これが時代の流れだろう。政府の方針を受けるかたちで、福岡県もIoTの出口部分のコアであるロボット、そして基礎部分の高度なセンサー、システムLSIに注力し、新たな産業分野の創出に全力を挙げるのだ」
久方ぶりにお目にかかったふくおかISTの先端半導体設計センター長、藤元正二氏の力強い言葉である。ふくおかIST、正式には(公財)福岡県産業科学技術振興財団(福岡市早良区面道浜3-8-33、福岡システムLSI総合開発センター)は、今から26年前の1989年11月1日に設立された戦略組織である。そう、つまりは日本バブルの絶頂期に、この組織はスタートした。
ふくおかISTの現在における主要事業は、(1)産学官連携による共同研究の推進、(2)先端半導体開発拠点化の推進、(3)有機EL産業の拠点化、(4)Rubyセンターの運営となっている。理事長は九州大学総長を務められた梶山千里氏。
「15年前にスタートしたシリコンシーベルトの福岡プロジェクトは、世界レベルの先端半導体開発拠点を構築する構想であり、多くのアクティブな活動を展開してきた。全国初の産官学一体の先端半導体の技術者養成機関である福岡システムLSIカレッジは、1万2630人の設計受講者を生み出し、産業界に貢献した。先端システムLSI開発拠点推進会議の会員数は、設立当初の約9倍となる375会員に増加し、ネットワークが拡大した。そして何よりも多くの半導体ベンチャーを生み出し、海外からの企業誘致に成功した」(藤元氏)
藤元氏がセンター長を務める先端半導体設計センターは、半導体関連企業インキュベーションを最大の目的としているが、現状でインキュベーションルームには43社が入居し(入居率93%)、ベンチャーや県外のスタートアップの場となるシェアードオフィスは2社が入居(入居率91%)、ほぼフル稼働の盛況となっている。北部九州に自動車産業が集積してきたことを反映し、エンベデッド関連企業の入居も多くなってきている。そして今やCMOSセンサーという黄金の武器で九州シリコンアイランドの主役にのし上がったソニー関連の企業の入居も多いという。
ふくおかISTが5年前に設立した糸島の社会システム実証センターは、先端システムLSIの開発成果を加速するために開発製品の評価・実証を行う設備・ノウハウを提供する施設であり、10億5000万円が投じられた。ほぼ同じ時期に立ち上がった三次元半導体研究センターは、3次元実装技術における異種半導体チップ混載やチップ積層化技術を追求する施設だ。部品内蔵基板などのプリント配線板技術を、シリコン貫通電極(TSV)を有するシリコン基板製造技術の双方から開発を行うものであり、少なくとも国内では初かつ唯一の施設として注目される。このセンターには27億4000万円が投じられた。特筆すべきは、電子回路の部品内蔵基板に関する国際標準規格は日本のJPCA(日本電子回路工業会)が取得しているが、このサポートを徹底的に行っていることだ。
「有機光エレクトロニクス実用化開発センターは新しいプロジェクトであるが、大きな成果を生み出しつつある。すなわち、韓国のサムスンやLGに対して大きく遅れをとっていたニッポンの有機ELのブレークにつながる研究に貢献したのだ。九州大学発ベンチャーのキューラックスは、同大学の安達千波矢教授が開発した第3世代の熱活性化遅延蛍光材料の実用化に取り組んでいるが、2月25日に15億円の資金調達に成功したと発表した。これで製造コスト1/10、画期的な発光効率を持つニッポン発の新世代有機EL実用化に大きく踏み出した。アップルの2018年モデルのiPhoneのディスプレーに採用を目指すのだ」(藤元氏)
さて、福岡先端システムLSI開発拠点推進会議はシリコンシーベルト(福岡をアジア全域の半導体設計開発の拠点にする構想)をベースに2001年に設立され、現状で会員数は386。一方、2003年6月に設立されたロボット産業振興会議は、現状で会員数400。この2つの組織が合流するかたちで、新たに福岡県ロボット・システム産業振興プロジェクトがスタートした。参画する会員数は実に800社近くにのぼるのだ。会長はロボットの世界チャンピオンである安川電機の代表取締役社長兼会長の津田純嗣氏。
「この新たなロボット推進のプロジェクトは、LSI設計、無線通信、センシング、組み込みソフト、駆動システムなどこれまでのプロジェクトで培ってきた高度な基盤技術を融合するものだ。センサーで世界一、ロボットで世界一の日本が踏み出していくIoT実現のために全力を挙げていく」(藤元氏)
福岡県ロボット・システム産業振興会議のターゲット分野は、同県の強みを生かせる(1)医療福祉、(2)エネルギーマネジメントシステム、(3)食品・農業にあるという。シンプルに言えば、ロボット世界No.1の北九州の安川電機とCMOSセンサー世界一のソニー、車載マイコン世界一のルネサス エレクトロニクスががっちり手を握れば、とんでもない先進的なロボット・システムが作れる可能性がきわめて高くなる。ふくおかISTの運動論は、IoT時代を迎えて世界ステージに出て行くニッポンのお家芸「ロボット」につながっていったのだ。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。