「女性の月給が過去最高になったというけれど、平均で25万円にもいかない。男性の賃金を100とすれば、女性は72.2でしかなく3割も低い。これは断固として不当であると言わざるを得ないわ」
神田の居酒屋でバリバリのキャリアウーマンたちと交流の時を持っていた折に、筆者の正面に座った女性が机を叩いて放った言葉である。まるで、男性たる筆者が悪いかのように射すくめるその女性の視線はビビるほどにすごかった。「まあ、そんなに興奮しないで一杯どうですか、お姉様」と卑屈に酒をつぎ、媚を売る自分の姿が悲しかった。
それはさておき、厚生労働省が2月18日に発表した2015年の賃金構造基本統計によれば、フルタイムの女性の月額賃金は平均24万2000円で、前年に比べ1.7%増えた。統計上では過去最高の月給となったのだ。ところが、フルタイムで働く男性の月額賃金は33万5100円で、同じく1.7%増えている。要するに、男女の賃金格差はほとんど詰まっていないのが実情だ。安倍総理は今や労働組合のリーダーのように「何としてもバカ高い賃上げを実現」「同一労働同一賃金を何としても達成しろ」と叫んでおられるが、なかなかもって実情はそうはいかないのだ。
筆者がまだパシリの若い記者であった頃には、多くの企業の部課長たちは「女性は職場の花、それ以上でもそれ以下でもない」と平気な顔で言っていた。今日にあっては、仮にもこんなことを職場内で言えば、とっちめられるばかりか、女性差別で訴えられるケースもあるだろう。ただ筆者は思うのだ。
「女性たちがいれば職場が華やかになる」「男性よりもはるかに細やかで、優しい女性の対応は今や企業にとって必須」「こつこつとまじめに働く女性たちの姿は美しい」――こんなことを言いながら、金の話になれば結局は男性の圧倒的な優位性は動かず、女性たちは相対的に低い賃金のままなのだ。
もっとも、徐々にではあるが女性の月給が引き上がってきた理由の1つは、女性管理職の増加である。今や女性管理職の割合は全体の8.7%を占めており、この1年で0.4ポイント上昇した。
しかしながら、お隣の巨大な国、中国では女性たちのポジショニングは日本に比べてはるかに高いのだ。中国女性が企業経営のコアとなる管理職層に多く配置されており、全体に占める割合は約50%である。堂々の世界一となっている。世界でも稀な男女平等の国であるからして、当然のこととはいえ、経済活動に占める中国女性の存在感は想像以上にすごいものがある。中国女性の就職率は73%にも達しており、これまた世界の4位にランクされている。
もっとも、中国においても働く女性たちの現状は厳しい。家庭を持つ中国の職業女性の働く時間は、男性たちの22.8倍にもなるという。男女平等とは言いながらも保守的な観念はまだ残っており、ある調査によると、中国の61.5%の人たちがお金を稼いで家族を扶養するのは男性のことだと思っている。
ただ、男性である筆者としては、逆差別を感じることもままあるのだ。温泉・サウナには良く出かけるが、レディースデーはあってもメンズデーがないことが多い。ホテルのランチバイキングなどでも女性優遇の方針が取られており、男たちは女性より高いお金を払って食べている。洋服を買いに行っても、男性服に比べて女性服はなぜこんなにメチャメチャ安いのだと思えてならない。
それはともかく、男性と女性が平和裏に共存するためには、どちらかが不当に優遇される、または冷遇されるという事例を改めていかなければならないだろう。女性の月給が低いということの大きな理由として、勤続年数が平均9.4年と短いことがある。男性と同じように長く勤務するためには、子供を産んで安心して働ける環境づくりがどうしても必要なのだ。国においても、地方行政においても、はたまた企業においても、その努力は続けなければならない。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。