電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第170回

「物流センターの中に工場を作る」という発想で伸びた!!


~アイリスオーヤマの大山健太郎社長が語る深くて鋭い言葉~

2016/2/12

 「生活者の視点で暮らしの不満を解決することに全力を挙げている。世界の収納文化を変えたクリア収納ケース、震災の復興支援から生まれた低温精米などは、常識にとらわれないイノベーションが生み出したものだ」

アイリスオーヤマの大山健太郎社長
アイリスオーヤマの大山健太郎社長
 静かにとつとつと、しかし確信の視線を持って聴衆にこう呼びかけるのは、今や超有名企業となったアイリスオーヤマの大山健太郎社長である。これは、先ごろ東京で開催された佐賀県の企業立地セミナーの講演の中で語られた言葉なのだ。筆者も講演をご一緒させていただいたが、何と自然体で柔らかい方だろう、というのが第一印象であった。そしてまた一方で、常に考えて考えて考え抜く思想をお持ちの方だと認識したのだ。

 大山社長は先代がいなくなり、19歳で家業を継ぐという試練から社会的人生をスタートした。東京オリンピックが開催された1964年のことであった。社員はわずか4~5人しかいない。売り上げはすべてひっくるめてもたったの500万円。正直言って後を継いだは良いが、呆然と立ちつくすばかりであったと回顧する。

 しかして、大山氏はそこから這い上がっていくのだ。その武器はたったの1つ。お客様のすべてのニーズを満たし、そのソリューションを形にすればよいと考えたのだ。初のオリジナル製品は養殖用ブイであった。その後ガーデニング文化やペットブームを牽引する商品を次々と開発し地歩を築く。そうしてメーカー・問屋の機能を併せ持つメーカーベンダーの仕組みをプラットフォームに展開していく。現状でアイリスオーヤマのグループ企業は、23社を数える。売り上げは今や3000億円を突破しており、この約10年間で約3倍に押し上げるという右肩上がりの成長を成し遂げたのだ。

 「1989年に開発したクリア収納ケースは、今では当たり前のものとなったが、当時は全くない製品であった。自分が釣りに出かけようとお気に入りのセーターを探したところ、なかなか見つからずイライラした。それなら中身が見える収納ケースを作ればいいと考えた。驚くべきことに、このクリア収納ケースは世界初の製品であった。日本で、米国で、ヨーロッパでも生産し、大ヒット商品になった。しまうという収納の常識を、探す収納へと発想を転換したことで、この製品は生まれた」(大山社長)

 アイリスオーヤマというカンパニーには大きな2つの信念がある。1つは過去の常識にとらわれないイノベーション。もう1つはユーザーイン発想のモノづくりである。商品開発はまさに命がけであり、常にユーザーの問題解決を考え、現状では1万5000点を超える商品数を誇っている。驚くべきことは毎年1000以上の新製品開発を行っていることであり、全体商品の50%以上が常に新商品で占められているというのだ。

 「省エネで地球環境を守るという発想は、照明のLED化につながった。アイリスグループでは値ごろ感や人感センサー付き家電など、生活者のニーズをとらえた付加価値商品を開発するソリューション提案を常に行っている。ありがたいことにLED分野ではいくつかの分野でトップシェアを取らせていただいている。また、当社は宮城に本社を置く企業として震災の復興支援に協力したが、この中で生まれたのが精米事業だ」(大山社長)

 同社は被災地である宮城県亘理町に精米工場を建設した。グループの技術・開発力を活かし、低温保管・低温精米・低温包装した3合ずつの小分けパックは、1年中新米の美味しさを保ったお米の提供につながり、単身世帯を中心に購買層を広げ、米の消費拡大を促進した。

 「株式上場については常に質問されるところであるが、はっきり言ってあえて上場しない。アメリカナイズされた資本主義一本やりのやり方は、まったくもってアイリスの社風に合わない。確かに会社は株主のものであるが、アイリスにあっては社員が一番大切な存在なのだ。そういう考えもあって、主任以上の社員に対して営業利益の5%を常に還元している」(大山社長)

 さて、同社が非常に重視するのが佐賀県鳥栖工場である。敷地約16万m²に延べ床面積9万m²の工場が立ち上がっている。そしてまた、ここの自動倉庫パレット数は2万4468もあるのだ。ちなみに、アイリスオーヤマの持つ工場数は国内13工場、海外11工場であり、国内外自動倉庫の保管能力は何と30万9547パレットに達している。

 「物流センターの中に工場を作る、というのがわが社の基本発想である。つまりは製造(メーカー)と問屋(ベンダー)を一体化し、流通のムダをカットする。世界一の自動倉庫でマネジメントする。これがアイリスの最大のイノベーションだろう」(大山社長)

 佐賀県鳥栖工場はアジアの工場として今後も最大強化する方針だ。鳥栖というロケーションは九州の要に位置するだけでなく、福岡からの空路を使えば中国大連まで1時間半で行くという至便さが魅力。大山社長は鳥栖工場内に新たな低温精米の工場を近い将来に作りたい、との希望を述べられ講演を終えた。アイリスオーヤマの生き方に賛同する聴衆たちから大きな万雷の拍手が巻き起こったのは、当然のことであったろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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