電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第169回

IoTビジネスの日本市場は2019年に16.4兆円に膨れ上がる!!


~「日本はセンサー、ロボットで戦え」ロンド・アプリの中崎代表は語る~

2016/2/5

ロンド・アプリウェアサービスの代表取締役 中崎 勝氏
ロンド・アプリウェアサービスの
代表取締役 中崎 勝氏
 久方ぶりに大分県LSIクラスターのカンファレンスで講演をさせていただく機会に恵まれた。しかして、30~40年ぶりの大寒波襲来のときの移動であったから大変なことになった。飛行機は軒並み欠航であり、博多まで新幹線を使い、そこから特急で大分入りしたのであるが、実に約8時間もかかる鉄道の移動となってしまったのだ。それでも東芝の大分工場長の森重哉氏をはじめ、多くの大分県下の半導体関連企業の方にお目にかかり、有意義な会議であったと思う。

 筆者の講演の前に(株)ロンド・アプリウェアサービス(東京都渋谷区)代表取締役の中崎勝氏の話があり、これが実に面白かった。タイトルは「IoT・2つのチャンス~ものづくりIoTとビジネス展開」というものであり、分かりやすくIoTの実効性について解き明かしてくれたのだ。ちなみに同社はIoTコンサルティングで評価が高く、日本の大手企業中心に45社と取引があるという。

 「IoT(Internet of Things)のグローバル市場は、2020年で365兆円、日本の市場は19年に16.4兆円まで引き上がるといわれている。きっかけはGEが作った新たなモデルであるインダストリアルインターネットであった。自社製の航空機にセンサーを付け、インターネットとつなぎ効率的な運行方法を編み出し、燃料費削減に成功した。これを見た日本のコマツはGEと提携し、鉱山設備の稼働データをインターネットで収集・分析し、最適な運用を提案するという行動に出てきた」(中崎代表)


 巨大化するIoTビジネスを狙って規格の主導権争いは激化する一方だ。今のところはクアルコムのAllJoinが超大本命といわれており、これをアップルのHomekitが追いかけ、もちろんインテル、サムスン電子、グーグル、GEなどもこの大激戦に加わっている。残念ながら日本勢の姿はどこにも見えない。

 ドイツはインダストリー4.0を打ち出し、IoTを活用したサプライチェーンマネジメントを国家プロジェクトとして強化している。インダストリー4.0は、要するに顧客と工場をつなぐ、工場と工場をつなぐ、ものと設備をつなぐ、M2Mモジュールで設備と設備をつなぐという商品なのだ。頭のいいドイツはこれをまず中国に売り込んだ。ドイツに遅れること4年、15年に至って中国政府は「中国製造2025」を打ち出し、製造業の高度化にロボット+IoTをメーンとしたインダストリー4.0の導入を決めたのだ。高くなる一方の人件費の削減、付加価値生産への移行が待ったなしである中国は、インダストリー4.0に飛びついたのだ。
 そして中国に遅れること1カ月半、15年7月に至ってようやくアベノミクス成長戦略の3本目の矢である「日本再興戦略」が出されることになる。具体的な取り組みとしては、ロボット+IoT+ビッグデータという内容であり、平成27年度補正予算案では(1)IoT推進のための新ビジネス創出基盤整備事業:16.2億円、(2)人工知能・IoTの研究開発加速のための環境整備事業:9.0億円がつけられた。日本もようやくにして動き出したが、残念ながら遅れを取ったことは間違いない。

 「IoTといえば、何か全く違うビジネスが生まれてくるように考える人が多いが、それは違うのだ。IoTはいわば画期的な技術革新のことを言うのであり、とりわけモノづくりに応用された場合、目に見える効果が表れる。RFICタグでモノを管理すれば、多くのロスがなくなる。スマートグラスやネットワークカメラを使えば、作業の標準化、技能の伝承などが図れる。また安全管理、品質管理、改善活動にもつながってくる。モノづくり王国の日本こそIoTが必要なのだ」(中崎代表)

 しかして日本の強みは、生産現場におけるノウハウや知恵の蓄積、つまりはモノづくりのコンテンツに優れることにある、と中崎氏は主張するのだ。例えば検査工程の自動化は非常に遅れており、電子デバイスでは今でも目視検査が重視され、自動車は一工場で200人が検査に当たっているという。こうした工程をロボット化すれば一気に生産性は向上する。

 電子デバイスという点でIoTを見れば、ウエアラブルデバイスとしてのスマートグラス、人の動作を認識するモーションセンサー、タグにICチップと小型アンテナを埋め込むRFICタグ、その他光電センサー、CMOSセンサー、近接センサーなどが重要になる。将来展望としては、センサー自体が通信機能を持つといわれており、日本の電子部品メーカーはこの開発に全力投球している。

 個別のIoTシステムの本流になるといわれているのがアジャイル方式であり、これはいわゆる日本の暗黙知を活用したものだ。自動検査という工程は最もIoTの効果が出るところであり、1システム導入しただけである工場の検査人員は100人から50人になり、年間で2億5000万円のコスト削減が成果として出てきたというのだ。

 「モノづくり世界一の国」といわれる日本でIoT導入のスピードがついていないことに多くの懸念を覚える。IoTを加速させなければグローバル競争に負けてしまう。インターネット、ビッグデータ、AI、セキュリティーなどの領域では米国は圧倒的な強みを持っている。ハードに強い日本は、スマートグラス、ICタグ、センサー、ロボットの領域で世界のIoTをリードしていくべきだ」(中崎代表)

 確かにセンサー分野における日本企業の世界シェアは約40%、ロボットにおける同シェアは60%と強いわけであり、ここが世界のIoTにおける日本の活躍ステージになっていくだろう。また日本はモノづくりのコンテンツのところで圧倒的な強さを誇っており、これをソフト化し、ハードに組み込み、IoTを制するという手段もある。IoTビジネスをめぐる世界戦争で「モノづくり王国日本」が負けることはありえないのだ、といっておこう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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