京都大学は、京都大学医学部附属病院(京都市左京区聖護院川原町54、Tel.075-751-3111)の敷地内で新病棟「南病棟」を建設し、先ごろ、新病棟(南病棟)完成記念式典を開催、2015年12月27日に移転・開院した。総工費は約86億円。生活習慣病をはじめ、感覚器や運動器の病気を抱えた患者に対応する病棟となっている。
同病院は病院施設マスタープランに基づき、コンセプトを明確にした病棟の整備を行っている。10年5月に竣工した積貞棟は《がん中心の病棟》、今回竣工した南病棟は《生活習慣病棟》、そして計画中のII期病棟は《高度急性期医療病棟》を掲げている。南病棟の設計コンセプトは、(1)機能の充実とアメニティの向上、(2)高度先端医療を支える施設、(3)快適な医療空間を創造、(4)柔軟性を確保、(5)エネルギー使用量の削減、(6)積貞棟・その他周辺建物との調和、の6つがある。
(1)ではセキュリティー管理のしやすいゾーニングとし、生体サイクルに合わせた24時間自動調整照明(サーカディアン照明)を導入。(2)ではスタッフ諸室の集約化を図るとともに、多様なスタッフ諸室の配置により、集学医療の実践を促進する。(3)では、個人のプライベート領域を形成しやすい4床室のしつらえとし、4床室は1床あたりの居室面積が8m²となっている。(4)ではフラットスラブを病室の床に採用し、フレキシブルな無梁空間を構成。さらに、建物中央はコアフレームにより、水平剛性を確保している。(5)では、建物の南側に遮光用水平ルーバーを設け、直射日光を遮断しているほか、冬季は遮光用水平ルーバーを透過した日射が、室内に取り込めるような仕組みを構築。そして、(6)では積貞棟のデザインエレメントを継承し、病院全体の外観デザインとの調和を図っている。具体的には、“格子”や“簾”をイメージさせる京都らしい外観を形成したほか、屋上設備機器の目隠しルーバーは積貞棟のデザインを継承し、東山の山並みと調和するスカイラインを表現するため、勾配屋根の形状に仕上げている。
フロアは、地下1階にリハビリテーション部や医療情報企画部が入り、地上1~8階が病棟で、1階に整形外科、2階に皮膚科、形成外科、初期診療・救急科、3階に神経内科と歯科口腔外科、4階に脳神経外科、5階に耳鼻咽喉科、6階に腎臓内科と免疫・膠原病内科、7階に糖尿病・内分泌・栄養内科と神経内科、8階に眼科を配置。
病棟フロアは各フロア共通の造りとし、スタッフステーションもオープンな造りを採用している。また、病室は4床室を北側に、個室を南側に配置し、各病室にトイレを分散して設置。カンファレンス室は、1フロアに1室の割合で配置し、上下階で共有して使用する。エレベーターは用途ごとに区別し、病棟の東側に集約配置している。
地下1階のリハビリテーション部には、関節の曲げ伸ばしを行うベッドスペースや、歩行訓練を行う平行棒のほか、階段の昇降運動を行うスペースや自転車のトレーニングスペースなども用意。さらに、同病院では初めてとなる3次元動作解析装置も導入している。同部では理学療法士が15人、作業療法士は5人、言語聴覚士は3人を配置する。病室に関しては、4床室において、明るさが10段階に切り替わる照明を導入したほか、空調も個別方式を採用しており、個々に暑さや寒さを調節できる。読書灯や夜間処置灯も配置しており、今後は脈拍や血圧などのバイタルサインを計測する、医療情報システムを導入する予定。そのほか、8階には眼科の高度な処置を行うため、手術室と同レベルのクリーン度(クラス1万)を持つ処置室(1室)も設けている。
稲垣暢也病院長は完成記念式典の挨拶において、「南病棟は生活習慣病をはじめ、感覚器や運動器、そして膠原病などの病気を抱える患者に対応した病棟となる」とコメント。「今回の南病棟に続き、II期病棟の建設も間近に控えており、地域の拠点病院としてだけでなく、我が国の中核病院として努力していきたい」と抱負を語った。
南病棟は積貞棟の南側に位置し、規模は建築4206m²、RC一部S造り(免震構造)地下1階地上8階建て延べ2万2708m²。病床数は414床で、個室が126室(そのうちシャワー付きは43室)、4床室は72室の計198室を備えている。総工費は約86億円。基本・実施設計は(株)内藤建築事務所が、施工は清水建設(株)が担当した。
また、同病院は旧南病棟の跡地でII期病棟の建設も計画している。規模はRC造り地下1階地上8階建て延べ2万9310m²。病床数は351床を想定し、肝胆膵・移植外科、心臓血管外科、循環器内科、婦人科の計4科目のほかに、RI機能を生かした診療科目も新設する予定。16年度に着工し、19年度の開院を目指す。