電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第166回

「聖子」と「マッチ」ではもう盛り上がらないかもしれない


~IoT時代に向かっているのに今だ新カルチャーを見出せない日本勢~

2016/1/15

 生粋の松田聖子ファンであることをカミングアウトした時に、どれだけの人たちに軽蔑の眼差しを向けられたことだろう。泉谷クンはもっとインテリだと思っていたのに、見下げ果てた人ね、と何人の女性に言われたことだろう。あのぶりっ子ぶりを見ているだけで気持ちが悪くなる。という人は多い。しかして筆者は約40年近くも、うっとりとした目で聖子を見ているのだ。

 それはさておき、年末の紅白歌合戦の大トリは2年連続で松田聖子であった。筆者は小躍りして喜んでいたが、これには理由がある。NHKが一昨年の大トリに松田聖子を選んだ時に、多くのアンチ聖子ファンはこう言っていた。
 「50を過ぎてアイドル、というあの化け物女を選ぶとは見識を疑うわ」。
 そうわめき散らすお姉さまに対して筆者は強くこう言明したい。一昨年の大トリをとった松田聖子の歌唱シーンは、実に番組中ダントツの50%近い最高視聴率を獲得しているのだ。これだけでも隠れ聖子ファンがいかに多いかが分かるだろう。今回の紅白は確かに目玉となるアーティストが少なかった。サザンオールスターズも中島みゆきも、若手で人気のももクロも出ないという低レベルの水準にあって、松田聖子は押し出されるようにして、2年連続の大トリを務めることになったのだ。

 それにしても、聖子の前に歌った男性陣のトリであるマッチ(近藤真彦)はひどかった。50歳になるマッチが声を張り上げて「ギンギラギンにさりげなく」を絶叫しても、会場は全く盛り上がっていなかった。大トリをとった松田聖子は「赤いスイートピー」を歌ったが、これまた迫力に欠けており、あどけなさが色褪せて見えるという印象であった。筆者としては今回のレコード大賞の最優秀歌唱賞を取った松任谷由美の新曲を聴いてみたかったので、この選曲は残念だった。

 53歳の聖子と50歳のマッチが1980年前後の時代性をノスタルジックに歌い上げても、やはり感動はなかったのだ。もっとも「ギンギラギンにさりげなく」の作詞者は伊集院静であり、「赤いスイートピー」の作詞者は松本隆であるからして、空前のバブルに向かっていく80年代の青春の始まりを見事に捉えた詩ではあった。

 それでもやっぱりピチピチ肌には勝てない、と思いながらこの惨憺たる紅白のフィナーレ(ついに視聴率は史上最低の37%!)を見ていたが、時代性を踏み外すとはこのことだろうと感じてならなかった。80年代と言えば日本のアナログ家電が世界を席巻し、家電大国ニッポンに象徴されるようにジャパンアズナンバーワンというあらゆる国からの評価があったのだ。
 しかしてソニーやパナソニックで世界を牛耳ったテレビの世界は、韓国のサムスンとLGおよび中国勢にぶちのめされてしまった。空前のヒットを放ったソニーのウォークマンはあろうことか、そのアイデアそのものをデジタルに置き換えるアップルのiPodにビジネスモデルを取られてしまった。

 高級タイプの白物家電はいまだに日本製が評価されているが、世界の趨勢は中国に移りつつあることは間違いない。高級オーディオのオンキヨーはインテルに買収されてしまったし、三洋電機は事実上経営破綻し、パナソニックに吸収された。そしてまたシャープも東芝もかなりの危機を迎えている。70~80年代に大活躍した日本の家電カルチャーは全軍総崩れとなった。

 その後の時代はパソコンが牛耳ったが、これもまた落ち目の三度笠となり、スマートフォンが完全にIT・通信の主役にのし上がった。日本勢はこの流れに全くついていけなかった。そしていよいよ2016年を迎え、時代はITカルチャーからIoTに向けて、急加速を始めている。すべてのモノとコトをインターネットにつなぎ、画期的な革新性を図り、社会インフラを再整備するというIoTは最大で900兆円の巨大市場に化けると言われている。しかして日本勢の多くは、またもや立ち尽くしているのだ。ロボットやセンサーなどに強みを持つものの、グローバルなIoTの流れをキャッチした新たな製品群を明確には作り出しえていない。

2020年に東京オリンピックを迎える日本は若い力でつくりあげてゆけ!(写真は東京駅の夜景)
2020年に東京オリンピックを迎える日本は若い力でつくりあげてゆけ!(写真は東京駅の夜景)
 紅白を卒業したという森進一が涙をぼろぼろ流しながら「お母さん!!」と叫んでも、物事は何も変わりはしない。53歳にしてアイドルの松田聖子がどれだけ頑張っても、新しい時代を迎える扉を開くことはできない。時代の最前線にいるのはいつも若者たちなのだ。2020年に東京オリンピックを迎えるニッポンは、やはり若い力で作り上げていく国にならなければならない。

泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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