電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第165回

日本初の「春画展」に群がる女性たちの熱気はすごかった!!


~海外で評価されてやっと国内が認めるというブーメラン現象~

2016/1/8

 激動の中で2016年の初春を迎えた。今年も中国リスクの増大、シリア難民問題、世界の株価の下落状況、注目の米国大統領選などについて関心が集まるだろう。あの大放言しまくりで「品格のない」トランプ氏がもし米国大統領に選ばれたら、世界はあっということだろう。

 「品格のない」という点では、筆者もまた定評のあるところである。それゆえに、師走の忙しさの中にあって、何とかやりくりして日本初の「春画展」なるものを観に行ってみた。会場は元首相の細川護煕氏が主管する永青文庫であり、夜露に濡れながらエッチラオッチラと長い坂を上って辿り着いた。もちろん期待に胸を弾ませてのことである。
 「品格のない」筆者であるが、平日の夜にこのようなアブナイモノを観に行くのは、実のところためらいはあった。会場係にやけに明るい声色で「お客さん、春画展はこちらですよ」とか話しかけられ、恥ずかしさに下を向いてしまった。また、受付の女性も平静を装いながらも「お前はこんなものを見るのか」という目で見ているように思えてならなかった。筆者は意外とこれでもシャイであり、『図解で分かるセックスのすべて』という本を買う時にも、その本の上にニーチェの哲学書を載せて本屋の売場に出すほどなのだ。

日本初の「春画展」は永青文庫で開催され大ヒット!!
日本初の「春画展」は
永青文庫で開催され大ヒット!!
 それはさておき、驚かされたのは春画そのものではなかった。何と会場の約9割は女性たちで埋め尽くされていた。男性である筆者は、立場がなくコソコソと見るような有様であった。そのものズバリの性交シーンを誇大に描く春画を、食い入るように見ている女性たちの眼は真剣そのものであった。ゲラゲラと笑いながら見ている女性はほとんどいなかった。まるで何かの学術展を見るかのように、燃え上がった眼で春画を見つめる女性たちの化粧の匂いと立ちのぼるメスの気迫に、筆者はそれこそフラフラになった。
 「いまどきの女性はあなおそろしや」と思い、筆者は春画はそっちのけにして彼女たちを深く観察した。ひたすらにメモを取るアラサーの女性、なぜかしっかりと手をつなぎながら見ている女子大生の2人連れ、やる気満々熟女系のお姉様など様々な客層であった。一人で見に来ている女性も多く、筆者は「なかなかすごいものですなあ、これは」と話しかけ、モーションをかけようとしたが、ただ睨まれるだけであった。
 文藝春秋を読んでいたら、この春画展は何回も企画には上ったものの、日本国中の美術館、博物館はみな尻込みし、開催が叶わなかった。やるべき会場が全くなかったことを知り、細川護煕氏はさすがに通の文化人であるから、「それならうちが引き受けましょう」と快諾し、日本初の春画展が実現したのだ。このユニークな展示会はまさに大当たりを取った。開催を恐れて引き受けなかった人たちは、要するにリスクを取らなかったのだ。ところが、である。ヨーロッパにおいても、アメリカにおいても春画展は爆発的な当たりを取り、日本の浮世絵が今やサプライズの評価を受けていることを実証するものであった。

 海外で当たりを取ったことで初めて国内が評価する、というブーメラン現象はこの春画展においても明らかであった。半導体の最高権威といわれる東北大学名誉教授の大見忠弘氏は、こうしたブーメラン現象こそ日本人の悪いところだとして、かつてこのようにコメントしていた。
 「私のスーパークリーンルーム技術もなかなか国内では評価してもらえなかった。半導体世界トップの米インテル社がこれを採用してから国内の関係者も導入に動き始めた。日本人はいつもこうなのだ。かの黒澤明氏ですら国内映画評論家はなかなか認めなかった。海外のどでかい賞を取ってから、黒澤はすばらしいと言い始めた」

 付和雷同、という言葉がある。常に周りを見ながら自分の方向性を決めていく日本人のためにある言葉だ。昼飯のときに誰かがラーメンといえば、じゃー私もとばかりにみなラーメンになってしまう風景は良くあることだ。KY(空気読めない)という日本人の価値観は、実のところ諸外国にはあまり通用しないのだ。

 春画展で感動したフランスの女性が日本を訪れ、たくましい男性のエロスを求めたとしてもそれは空しいだろう。どだいが春画に描かれているような巨大な陽根を日本人の男は持っていないのだ。ただし、細かい気配り、優しい目線、お・も・て・な・し精神に溢れた日本の男性たちに、別の意味で狂ってしまうかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索