電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第160回

今や世界のKUMADAIマグネシウムは限りない進化を続けている


~航空機、医療、さらには3Dにも展開し量産検討段階~

2015/11/27

熊本大学 河村能人教授
熊本大学 河村能人教授
 熊本大学の構内に立ち上がった先進マグネシウム国際研究センター(MRC)を訪れる機会に恵まれた。もちろん、ここのセンター長を務める河村能人教授(工学博士)に会うためである。この人こそ、今や世界にその名を知られるKUMADAIマグネシウム合金の開発者である。

 「KUMADAIマグネシウムは限りない進化を続けている。2014年末には、これまでマグネシウムの採用を禁じていたFAA(米国連邦航空局)がこの解禁を決定したことで、一気に航空機への搭載に道が拓けた。
 航空機はこれまで超々ジュラルミンを使っていたが、これを軽いマグネシウム合金に置き換えていく方向が出てきた。機械的強度、耐食性、さらには不燃性など、どれを取っても圧倒的に優れるKUMADAIマグネシウムの登場なのだ」(河村センター長)

 KUMADAIマグネシウムの優秀さは、これまでにも世界的な話題を集めてきた。筆者もかつての著書『ニッポンの素材力』で詳しく紹介させていただいた。その折に、耐熱型については驚きとともに書かせてもらったが、何と2011年ごろには新たな不燃型が開発され、これまた業界、学会の注目を一手に集めることになった。

 「これまでのKUMADAIマグネシウムの組成は、マグネシウム+亜鉛+イットリウムであったが、その次の不燃型はマグネシウム+アルミ+カルシウムとなっている。これができたことで、何と1000℃まで加熱しても発火しないことが分かった。自動車、航空機、鉄道などの安全性に大きく貢献できる。」(河村センター長)

 熊本大学のMRCもボーイングとの共同研究を決めた。また、国の実用化プロジェクトにも主役として参加しており、国産ジェットの量産に賭けている三菱重工業や富士重工業とも共同研究することになったのだ。一方で、これまでの鋳造法による生産に加え、急冷法で作るという方法にもチャレンジしているが、急冷法でやれば10倍以上の耐食性を得られるという。

 医療分野への展開に向けた開発も加速している。東邦金属と開発した極細ワイヤーはステント縫合系縫合用ホチキスの芯、血管結合具などを対象に研究を推進している。直径50μmの極細ワイヤー(髪の毛の1/2)を作ることに成功し、まずは画期的なステントの量産化を企画している。従来のステントが150μm以上であることに対し、今回の開発では100μm以下の微細ステントにチャレンジしている。しかも重要なことは、このステントは生体に吸収されてしまうのだ。

 「このステントは人体に埋め込んで、しばらくのうちには生体に吸収されてしまう。人体の中で多い元素はカルシウムがトップ、次いでカリウム、ナトリウムであるが、マグネシウムは4番目に多い。ゆえに、人体との親和性が良く、全く問題がない。外科手術などをした折に現在はホチキス止めなどをしているが、KUMADAIマグネシウムで作った素材で縫合すれば、そのまま生体に吸収される。その他にも血管周りの応用など医療分野からの引き合いも非常に増えてきた」(河村センター長)

 KUMADAIマグネシウムの応用のステントの開発は、熊本大学医学部とMRC、日本医療機器技研(岡山の医療ベンチャーで先ごろ熊本に進出)、不二ライトメタルの3者で進められていく。そして、いよいよ国立循環器病センターもこのプロジェクトに参画してくる。

 KUMADAIマグネシウムがどうした原理でこれだけの効力を発揮するのかについては、オールジャパン体制でその解明が進んでいる。15年前には、河村教授は周りの人たちから「このようなくだらない研究はやめた方が良い、と言われ続けた」のであるが、本当のホンモノであったこの開発はやはり全世界に認められてきたのだ。神戸製鋼、住友電工など多くの素材メーカーも参画し、ブレーク目前という状況まで来ている。今後は、ロボット、機械部品、3Dプリンターの粉末などにも応用できるとして、さらなる開発が続く。

 「特許などの知財権は徹底的に固めている。量産はもちろん日本国内が望ましいが、販売はワールドワイドを視野に入れている。素材研究はすぐには成果が出ない。私もここまで来るのに15年かかった。こうした素材の研究を完遂するためには、企業の経営者の決断力と忍耐力が必要なのだ。そして、また汗をかくところをやらないで、他人のマネをするだけでは世界を驚かすようなものはできない」(河村教授)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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